年金・給与を銀行の口座に振り込んで安心?
年金は、安全・確実・有利(?)な我が銀行に「年金受取口座」を開設して下さい。
これは、銀行・信金・郵便局が、年金受取口座の開設を勧誘するうたい文句である。
給与を金融機関の口座への振込で受け取っている勤労者は、数多くいる。
年金は、法律で、「差押え禁止」が定められている。それは、老後の生活補償のための唯一の財産だということである。
給与は、「現金で全額を直接労働者に支給せねばならない」と労働基準法に定められている。
ところで、年金も、給与も、一旦、金融機関の口座に振り込まれたら、その直後から、「預金」になってしまうというマジックを、年金生活者や、労働者は、どれだけ知っているだろうか。
私は、息子が信金から借りたお金の連帯保証人となったところ、息子が多重債務者となり返済不能となったということで、国から振り込まれた年金を、信金が相殺したという相談を受けて、国に対して国家賠償訴訟を提起した。国は、年金受給者が、金融機関の口座に振り込んでくれと言ったから振り込んだので、責任がない、それが嫌なら、金融機関の口座への振込ではない方法で年金を受給すればよいと主張した。以前は、年金は、「チケット」のようなものが送られてきて、それを金融機関の窓口に持参して受け取っていたという。ところが、これは、種々の事故が付きまとった。間違いなく、本人の手に渡らないことがあったり、事務上の手続でミスがあったり。国は、年金受給者が多くなるということから、いかに間違いなく、年金を年金受給者に支払うことができるかを検討し、金融機関の口座への振込という方法を採用したが、現在でも、それ以外の方法で受け取ることもできるというのだ。しかし、年金受給用の申請用紙には、金融機関の口座を記載する場所がきちんと書かれており、それ以外の方法で受け取ることができる方法があるなど、考えられない。
ところで、私は、今、年金額月26,000円、一人暮らし、70歳以上、息子に資金援助を受けて生活しているという人の破産管財人である。破産者が、不動産をもっており、それらを処分するために正式破産となったという。裁判官は、年金しか入金されていない預金通帳に、破産宣告時に残っていた預金を「破産財団に組み入れる」ようにという。
私は、次のような理由で、裁判官の意見に反対している。
- 年金は、差押え禁止である。
- 破産は、裁判所が行なう手続である。国が差押え禁止であると定めている法律をやぶるようなことはできない。
- 破産者の年金額は、最低の生活すらできない程の低額であり、仮に、差押えとなった場合に、「差押えの取消」の申立てがあれば、とりけさざるをえない事案である。
- 有体動産の差押えの場合、現金がみつかった場合には、21万円は、差押えができない取扱となっている。それと比較しても、同じ裁判所がやることとしてあまりにも違いがありすぎるのではないか。
- もし、通帳に残っているわずかの年金を破産財団に組み入れて、それが、憲法に保障する生存権を侵害しているといって、損害賠償を起こされて、私が破産管財人として被告になるということになるのは、私としては、避けたい。
給与についても、同じことがいえる。
法律で、差押え禁止となっている多数の債権がある。それらは、殆どすべて、制度として、金融機関の口座への振込によって支払われる。これが、一番、正確で、間違いが起こらないということからである。
しかし、金融機関は、「口座に振り込まれたら、その瞬間に、『預金』に転化する」と称して、瞬時に、相殺の対象にすることができる。
このあたりの法律上の不備について、そろそろ、検討が加えられてもよいのではなかろうか。