弁護士は、多重債務者からの相談を断れるか?
私は、平成13年7月下旬、このホームページで、約3000万円の債務のため困っているとの訴えを受けた。自分達夫婦の借金だけではなく、支払いのために、友人・知人親族などに頼んでお金を借りてもらっているということだった。私は、一応、債務の明細をメールするよう連絡した。メールをみて驚いた。自分達夫婦の他、12名の人に頼んで借りてもらっている。とても、遠隔地の私が相談にのることはできない。そこで、私は、地元の弁護士会の知っている弁護士に相談にのってもらえないかと頼んだ。
8月初旬のことだ。ところが、8月9日、「話は終わりました」というメールがきた。
私が紹介した弁護士に電話をして面談の期日を決めてもらい、債務額等の明細をあらかじめFAXしたところ、次の理由で断られたということだ。
夫 | 破産・整理・再生法 (場所的に遠く、足を運ぶことや交渉が難しい) |
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妻 | 破産(ただし免責は難しい) 整理(収入が少なく難しい) |
友人等 | それぞれやってもらうしかない。 こういう方法しかないだろう。 |
因みに、債務の概要は、次のようになっている。
債務の原因
妻(昭和48年生)が、知人に頼まれてサラ金数社からの借入れについて連帯保証人となっていたところ、主債務者が所在不明となり、平成9年12月、支払いが遅れているので、一括して支払えと言われたことから、当時、結婚を前提しとて交際していた現在の夫に頼んで、借りてもらった。
さらに、妻は、知人に頼まれて、下着を購入するクレジット契約の名義人となっていたところ、その知人がクレジットの支払いをしなくなったことから、結局、自分で借りて支払わねばならなくなった。
さらに、平成7年ころ、叔母から、サラ金からお金を借りているが、それを整理したいので協力してほしいと頼まれて、自分名義でサラ金からお金を借りて叔母に渡したところ、結局、叔母が全く自分名義の借入れの返済をしないため、自分が支払わなければならなくなったというものである。
債務概要
妻名義 | 16社と個人2名から | 総額584万余円 |
夫名義 | サラ金・クレジット17社 | 総額747万余円 |
A氏名義 | 4社 | 217万余円 |
B氏名義 | 6社 | 206万余円 |
C氏名義 | 3社 | 53万余円 |
D氏名義 | 1社 | 29万余円 |
E氏名義 | 1社 | 18万余円 |
F氏名義 | 5社 | 207万余円 |
G氏名義 | 6社 | 193万余円 |
H氏名義 | 4社 | 110万余円 |
I氏名義 | 9社175万余円 | |
J氏名義 | 11社 | 557万余円 |
K氏名義 | 2社 | 88万余円 |
総計 | 31,894,480円 |
医者と弁護士の違いは何か?
医者は、法律で治療の拒否ができないこととなっているという。現実には、たらい回しされたとか、いろいろあるが、眼前の治療を必要とする患者の治療を拒否することはできない。それに対して、弁護士は、受任の義務はない。自分が気が進まないとか、相談者と意見が違うなどのことから、受任しないことができるとされている。
ところで、私は、多重債務者からの相談については、原則として拒否できないと考える。
前記相談者の話が全部真実かどうか、それは、わからない。しかし、全く嘘をいうことはない。相談者の妻が、自分で借金をしたというより、他人に騙されて名義を貸したり、保証人となったりして多重債務となったことは間違いないだろう。又、当時、交際し、現在結婚している相談者が、恋人のために、妻のために懸命に支払いをするために、多重債務に陥り、さらに、その支払いのために、友人・知人・親族に頼んで、サラ金からお金を借りてもらったことも間違いないと思われる。
このような事例に対して、弁護士が相談を断るということは、さらなる悲劇の拡大を黙認するというより、悲劇の拡大を助長することとなる。
毎月返済のために100万円を準備しなければならない相談者夫婦は、もう限界であるから、このままでは夫婦で出奔でもすることとなるだろう。そうすると、相談者夫婦に名前を貸した10名以上の人は、この相談者の妻と同じ状態におかれることとなる。即ち、突然、「支払いが遅れているから一括して支払ってほしい」との連絡を受けるのだ。それぞれ異なった環境にあるから、それに対応する方法も違うだろう。
しかし、殆どすべての人は、家族や配偶者に『内緒』で、相談者夫婦に懇請されて名前を貸したのだろう。そうすると、そのことを家族に言えず、相談者夫婦と同じようなこととなる可能性も極めて大きい。
このような多重債務者からの相談については、少なくとも、地元の弁護士会で、きちんと対応することが必要なこというまでもない。
相談者夫婦が、どの程度の支払い能力があるのかを明らかにせねばならない。
さらに、名義を貸した人それぞれに対して、名義を貸した人の責任、名義を貸してほしいと頼んだ人の状況、債権者との関係、さらに、利息制限法の問題等を説明し、これ以上悲劇を拡大しないための最大の努力が、弁護士には課せられている。
相談者夫婦は、東北地方に住んでいる。私が紹介した弁護士は、同じ県内の弁護士であるが、遠隔地だということも断った理由の一つである。
私は、北海道の北の果て釧路に住んでいる。それこそ、遠隔地である。
しかし、他に、頼むことができる弁護士も考えられない。
私に、どれだけのことができるか、それは、わからない。しかし、「相談にのるほかない」ということで、現在、私は、メールで、各名義人に対する説明文を作った。
この相談者のように、他人にまで頼んで借りてもらっているという多重債務者ではない場合においても、「弁護士は、台風の防波堤」である。ともかく、支払いができない状況にあるにもかかわらず、強硬な請求に困っている多重債務者の相談にのり、多重債務者やその家族が「静かに生活できる環境」を保障することが、貸金業規制法で、弁護士からの介入通知に、特別な効力を認められている弁護士の責務であると思う。
私は、相談した後、弁護士の指示に従わなかったとか、家計簿をきちんとつけなかったなどの理由で、断ることはある。
しかし、家族を含めて平穏な生活ができない状況にある多重債務者からの相談を断ることは、絶対にできない。と、私は思う。