家族が借金を払うということ!



 私は、多重債務者の相談で、家族が債務整理に必要なお金を準備しているとか、準備すると言われた場合、「それはやめなさい」という。

 妻が、500万円の借金をした、その整理のために必要なお金を夫が会社から借りて準備をすると言った場合、次のようにいう。

1、妻の借金をそのようなことで支払った場合、妻の借金はなくなって、夫の借金が残ることになる。それは、やめたほうがよい。

2、妻の借金が、今、話しているだけなのかどうか、それもわからない。多くの人は、借金を隠す。全部整理が終わったと思った後、又、借金が出てきたらどうするの。

3、夫が、借金を払い終わる前に、妻と離婚することになったらどうするの。妻は借金がなくて、夫だけが借金を背負うことになる。

4、妻が、また、借金をしたらどうするの。

5、夫の会社が営業不振になって失業したらどうするの。

6、家族の誰かが病気になって、お金が必要となったらどうするの。


 いろいろあるが、借りた本人が、「収入の範囲で生活できる」までに訓練されない状況で、借金だけを整理しても、「ろくなことはない」。

 私が、このような方針をとるようになったのは、これまでに苦い経験が沢山あるからだ。昭和57年ころのことだと思う。年令が一回りも違う夫婦が、労働組合の役員と一緒にきた。

 妻がサラ金から500万円以上の借金をしたという。夫は、すでに、勤務先をやめて退職金200万円位をもらっている。それで妻の借金を整理してほしいというとだった。

 私は、それはやめたほうがよい。退職も取消し、もう一度正社員として働けるようにしてもらったらどうかと何回も言った。しかし、夫は、なんとしても、妻の借金をそれで整理してほしいということだった。

 私は、それで整理をした。相談時の妻は、妊娠しており、臨月に近い状況だったと記憶している。夫の表情から、妻が可愛くて可愛くて仕方がないという雰囲気だった。

 それから、約半年をすぎたころだ、妻が、産まれてまもなく子供を連れて家出したという連絡が入った。どうも、男と一緒ではないかということだった。

 ともかく、妻の行方を探してなんでいなくなったのか聞くほかないという話をした。それから、数ケ月で、妻の所在がわかった。

 夫が、妻と一緒に来所した。

 私は、妻に事情を聞いた。

 妻の言い分は、次のようなことだった。

「夫は、本当にやさしい人だ。何も非難するようなことは言わない。しかし、毎日のように少し晩酌をする。晩酌をすると、夫は、『お前があんなことさえしなかったら』ということを言う」

という。つまり、夫は、退職して臨時職員として働いてい る。臨時職員なので、給料がやすい、ボーナスがないということなのだ。

 それを聞くとつらくてつらくて、いつも非難されているように思う。言われても仕方がないけど、やはり、それを聞くと自分が非難されているようで耐えられないというのだ。

 妻は、幾ら、説得しても、戻るとはいわれなかった。そして離婚になった。

 私は、家族が任意整理に必要なお金をすべて用意する、用意できている言われた場合、前述のような説明をして、そして、どうしても、一括で整理したいということなら、「1年待って下さい。1年間家計簿をつけてきちんと生活できるようになってからにして下さい」という。その間、家計簿をつけてもらって、残ったお金を毎月持参又は送金してもらってあずかり、返済のために借り入れたお金が間違いなく支払えるということに自信がもてるようになってから、全部の整理をしましょうというのだ。

 私だって、一括返済資金を作ってもらって、早く解決したほうがいい。弁護士手数料だってすぐにもらえる。しかし、それでは、本人のためにならないし、新たな多重債務者を作ることに手を貸すことできない。

 私のやり方は、間違っているだろうか。