年金狙い 公的融資悪用
東京新聞「特報」
「年金狙い 公的融資悪用」より
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040907/mng_____tokuho__000.shtml
年金狙い 公的融資悪用年金暮らしの老人の生活救済のため、年金から返済を行うとして設けられた公的制度に年金担保融資がある。だが、制度をよく知らない老人の無知につけ込んで、融資を仲介、融資の金を手に入れて暴利をむさぼる悪質な貸金業者がおり、被害がジワジワと全国に広がっている。問題の背景として、この融資制度の不備も指摘されている。 (星野 恵一)都内に住む男性(77)の妻(72)が一昨年冬、突然、倒れて入院。入院費がかさんだが、高齢者に融資してくれる金融機関はない。困り果てた昨年二月、自宅に届いた貸金業者のダイレクトメールに目を奪われた。 「年金・高齢者歓迎」 「高齢者にも融資してくれる」と、男性はこの貸金業者を訪ねた。 「百万円、お金を借りることができますか」 「年金証書、年金が入る預金通帳と印鑑があれば融資できます」 男性は年金証書、預金通帳、キャッシュカードを渡した。業者の従業員に付き添われて金融機関に行き、言われるまま、融資の手続きを行った。実際に手続きしたのはこの従業員だ。 その融資とは、独立行政法人福祉医療機構が行う公的な年金担保融資だ。 同制度は、国内で唯一認められた年金を担保にする融資で、二百五十万円まで借りられる。年金受給者が年金を全額返済に充てる場合、年間年金受給額の一・五倍まで、年金の半額を返済に充てる場合には、一倍の融資を受けられる。いわば年金の前払いだ。 当時、男性は何の融資を申し込んでいるのか知らなかった。「百万円でよかったのに、業者に言われ二百五十万円の借り入れを申し込んだ」と振り返る。 男性の口座に公的融資全額が振り込まれたが、男性が金を受け取ったのは、男性がキャッシュカードなどを預けている業者からだった。しかも、業者は振り込みの前後にわたって、男性に十万円、二十万円と小出しにして渡したのだった。 融資全額を受け取れないまま、返済も始まって生活資金に困った。男性の主張によれば、その後、業者から「借金」を重ねることになった。そして今年一月、「機構の融資への返済が残っているが、その分は立て替える」と言う業者の誘いに乗り、再び年金担保融資を申し込んだのだった。 結局、受けた融資は計二回、約五百万円に上ったのだが、男性が業者から受け取った金は、全部で約三百六十五万円。この差額は消えてしまった。男性は「業者が私のキャッシュカードを使って、勝手に引き出した」と主張している。 男性は「生活が苦しいこと、無知であること、気が弱いことにつけこみ、だまし続けた業者は許すことができない」と怒る一方「後から考えると、何でこんなことをしてしまったのか」と悔やんでいるという。 男性は弁護士らの助けを得て、五月に業者を出資法違反などで刑事告発、七月には民事訴訟も起こした。 出資法は金銭消費貸借の際の利息を最大年29・2%に制限、これに反した場合は三年以下の懲役か三百万円以下の罰金とする。男性の場合、受け取った三百六十五万円を貸金業者から借りたとし、消えた約百三十五万円を利息とすると、違法高利だ。 初回融資約二百五十万円が振り込まれた日までに受け取った約八十万円について計算すると、年利1997%に相当する。 訴訟代理人の森川清弁護士は「男性は過払いの状態で、業者は詐欺や横領にも当たる」と言う。問題の業者は、男性の抗議の手紙にも、訴訟の提起にもなしのつぶて。今は事務所を移転し、行方不明だ。 公的制度としての年金担保融資は「昭和四十年代、高利貸が年金証書を担保にして融資することが問題となり、その対応策としてできた制度」(厚労省)。 融資は年金受給者が自分で申し込むことが原則だが「委任状があれば代行を認める」(同機構)のだという。森川弁護士は「制度が逆手にとられているのは皮肉だ」と顔をしかめる。 実際、一人の老人が、年金担保融資制度を悪用する複数業者から食い物にされる例もある。 「業者のリストに載ってしまったのか、あちこちの業者からチラシやダイレクトメールが入る」と、先の男性と同じ業者による被害に遭った女性(76)。都内で独り暮らしで、唯一の収入は月約九万円の年金だ。 「家賃、電気、水道などの光熱費を引くと、ぎゅうぎゅうの年金生活」 業者からの「借金」を繰り返す中、別の業者の誘いで再び公的な年金担保融資を受けた。だが、手にした金はわずか。差額を借金の利息として計算すると、29・2%を超える高利だ。 女性はためらいながらこう話す。「業者を介さずとも公的融資を借りられることは知っている。でも前の返済が残っていると借りられない。が、業者は返済分を立て替えてくれる。私の方も悪いが、生活のためには、お金が必要」当座の生活費のため、悪質業者の存在を知りながらも、融資の申し込みを繰り返す高齢者がいるのも事実だ。全国で約四百五十の金融機関に受け付けの窓口がある。こうした業者の介在を申し込み時点でチェックできないのだろうか。 同機構の担当者は「機構が直接、貸し付けるのでなく、また、窓口のすべての声が上がってくるわけではない。注意は呼びかけているが、実態がつかめない」と言う。厚労省の担当者も言葉を濁した。「貸金業者が絡むケースは、聞いてはいるが…」 昨年度、同融資は約二十万四千五百件、約二億三千六百万円に上っている。このうち、どのくらい悪質業者が介在しているかを示すデータはない。 森川弁護士は「生活の原資を担保にした融資は、社会福祉になじまないのではないか」と、制度自体に懐疑的だ。「融資は無目的で借りられる特殊な制度で、当初、年金を全額返済に充てる制度だった。年金で生活している人は、借りた後、その返済のために生活ができない状態になることもある。昔は八十歳を過ぎると、連帯保証人が必要。それが歯止めだったが、数年前にその歯止めもなくなった。年金担保融資以外の、別の社会福祉制度の拡充が必要ではないか」 老人にとって確実な収入である年金を狙って、単純に、年金を担保にして金を貸す業者もある。 年金担保被害対策全国ネットワーク事務局長の関井正博司法書士は「年金証書などを担保にする行為は金融庁の事務ガイドラインで禁じている。各年金法もそうした行為を禁じているのだが、罰則規定がない。貸金業法にも罰則はない。これを奇貨として、業者は年金を担保とする契約を続けている」と指摘する。 利息制限を超えない範囲の「融資」なら、現行法で罰することはできないという法の不備が、年金関連のトラブルを助長している。 数年前から、年金がらみの被害は全国に広がっており、国会でも議論となっているが、国の腰は重い。関井氏は「被害が分かりながら放置しているのは立法の不作為だ。家族が気づくまで被害意識がない高齢者も多い。まず貸金業法に、年金を担保とする行為を禁止し、罰則を設けることが緊急の課題だ」と話した。
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感想
弱者を徹底的に食い物にする商売がこんなにはやっている国は、どこかが狂っているとしか思われない。諸悪の根源は、金融機関の注意義務違反ではないだろうか。
おれおれ詐欺にしても、ヤミ金にしても、その手先となっているのは金融機関である。
マネーローダリングされたお金は「没収する」というスイスの方針が明らかにされたが、金融機関が、マネーローダリングされたお金は犯罪であるとの徹底的に意識をもって業務を改善すれば、このような犯罪が大手を振ってまかりとおることはありえない。と思うのは、私だけではないと思う。