五輪塔の秘密ー密教の世界観の象徴ー

<我々はみんな星屑からできている>ー天文学者カール、セーガンは良くこう言いました。私たちの体のすべての原子は数千光年離れた赤色巨星で数十億年前に作られたものだからです。だとすれば死んだ後我々が<星になる>というのも決して荒唐無稽な話しではありません。

真言密教ではどうみているのでしょうか。

真言密教の世界観にもとづいて考案されたものに五輪塔があります。真言密教ではこの宇宙は地、水、火、風、空の五つの要素で構成されていると考えます。この要素のことを<大>とも<輪>ともいいます。<大>とは界、種とも訳されるダーツというサンスクリットからきてます。大きいという意味ではなく、根源的なという意味です。この五輪は左の様にそれぞれ種子(しゅじ)ー梵字と色、形をともない                      ます。


この五輪塔は法身、大日如来(ほっしん、だいにちにょらい)ー法身とは真理を体とするものといった意味です。大日如来とは宇宙そのものを動かす根源的エネルギー、宇宙生命とでもいうべき真言密教の教主です。ーそれを形で表わしたものです。大日如来は六大法身といわれますが、それは相互に有機的に関係しあう五大に心の働きである識を加えた六つの要素から成り立ち、かつ私たちを包みこんでくれているからです。

この五輪塔は平安時代ころから一般かして、供養塔、墓石として用いられ、また、板に五輪を刻んだ五輪塔婆が死者追善供養のために建てられました。

では、その形、色、梵字の意味するところを詳しく見てみましょう。形は下から、正方、円、三角、半月、宝珠で色は地(黄色)、水(白)、火(赤)、風(黒)、空(青)です。

 ア(a)字はサンスクリット語の不生(anutpada)という語の最初の文字です。それはこの宇宙は法身大日如来そのものであるから、万物はもともと存在していて新しく生じたわけではない、不生不滅であるという意味です。それは不動であるから大地に例えられ、安定した正方形で地大を示します。

 ヴァ(va)字はサンスクリット語の水(vari)という字の最初の文字です。それは日常言語では表現できない、分別をこえたものという意味です。分別の垢を洗い流し熱悩を除いて清涼にする水にたとえられます。形は思いのままにどこえでも自在である円形で表わされます。

 ラ(ra)字はサンスクリット語の塵(rajas)あるいは太陽(ravi)に由来するとされます。清浄であり塵やほこりがないちう意味です。煩悩という塵を焼き燃え盛る火にたとえられ火大を示します。形は鋭利な形で火炎を表わす三角形です。

 カ(ha)字はサンスクリット語で原因を表わす(hetu)に由来します。それは原因、条件、造作などを離れていることを意味します。自在に活動し、塵などを吹き払う風にたとえられ、風大を示します。一辺は正方形の安定性、一辺は円形の自在性というふたつの特性をそなえた半月形で示されます。

 キャ(kha)字はサンスクリット語の空(kha)に由来します。それは虚空のように自在であることを意味します。妨げがない大空にたとえら、空大を示します。団子形は三角と半月を合わせた形です。

この五輪を修行者の体の五箇所、すなわち、頂ー空大、面ー風大、胸ー火大、腹ー水大、膝ー地大と考える五字厳身観という観法があります。(ホームページをご覧下さい。)これは、この身のままに自身は法界塔婆すなわち大日如来であると観想し、自己の内に本来そなえている法身大日如来を見い出そうというものです。