会場に流れるウエディングマーチに乗って、二人はゆっくりと入場してくる。
白百合とかすみ草で飾られたヴェール、うっすらと化粧を施した横顔は、たくさんの幸せとわずかな緊張、それからちょっとばかしの不安に染まって、いつもよりも余計に美しく見えた。
 ウエディングドレスは純白。
ミニ丈のスカートが、彼女の健康的に引き締まった長い足に良く似合う。
その上に幾重にも重なった極薄のレースとオーガンジーが長く裾を引いていた。
 新郎は、白のタキシード姿。
何時も絶やさぬ微笑は優しく新婦を包み込んでいた。
ルリアのデジカメのフラッシュが、二人の幸せな姿を捉える。

「双葉さま、とてもお綺麗ですね〜。霜月さまとお似合いです」
「そうだね〜♪ アストさんもウエディングドレス着たい?」

 思いもよらずに振られたサジャの言葉に、アストライアは顔を赤らめた。
 
「あ…あの…わたくしは………。(照れ)
でも、憧れますわ〜。幸せそうですし…」
「きっと似合うと思うよ? アストさんなら…マーメィドラインのドレスとかでさ」
 
 スポットライトを浴びる新郎新婦の姿。
いつものラウンジもこの時だけは全く違う風景に見える。

「いろいろあったよねっ、ここでさぁ…」
「こんな出来事なら、大歓迎ですよね♪ 
ふたりの門出をみんなでお祝いすることができるなんて…素敵です」

 感慨深げにアストライアは微笑んだ。



「…しかし、無事に済みますかねえ…なんでよりによって、ここでするんでしょう…」

 隅の席で相変わらず半分電脳空間に降りつつレジスは呟いた。
 
「そりゃあ、ふたりが出会った場所なわけだしさあ」
「でも、ラウンジですよ? 
チーフ、ここで起った怪事件の数々を、身をもって体験してるでしょう? 
茄子とか壁とか冷蔵庫とか」
「壁いうな」

 シリウス星系よりも遠い目。
上司と部下はこそこそと言葉を交わす。
 
「僕は賭けてもいいですけどね。ぜったいなにか起りますよ」

 ひとしきり考えてレフティは目を逸らしつつ収まりの悪い茶髪の頭を掻いた。

「…賭けが成立しねえなあ…」
 

 淡々と段取り通りに正確に行われていくフロゥリアの司会で、順調に式は進んでいく。

『では、友人代表といたしまして、南雲ひとみ様よりお祝いの言葉を頂きたいと思います』

 はーいと元気に手を上げて前へと出てくるひとみ。
非常に不安そうに菊一文字はフロゥリアに耳打ちする。
 
「…あの……何故南雲様なんですか…?…他の方では……」
「新婦からの指名がありましたから。…なにか問題でも?」
 
 ありまくりだと菊一文字は思ったが、指名では仕方がない。

「友人代表って、よりによってひとみかよ…
なんかラウンジ!ってかんじのキャスティングで、悪くないねえ」
「ですねえ…どんなスピーチするんでしょう」

 期待と不安が集中する中、ペコリとかわいらしくお辞儀をするひとみ。

 「あ、挨拶の紙忘れた・・・」

 第一声からこれである。マイクは正直に彼女の声を拾っていた。

「まぁいいや・・・(良くない)
えっと双葉はとりあえず料理もできるし、大人や子供にも変身できるし変装も出来るすごい人です。
きっと立派なウェディングピーチとなって世界の為に革命を起こしてくれると思います。」

 軽い頭痛を感じて、フェンリルは額を押さえた。
気分が悪いとか言うのとはまた異質な…あえて言うなら呆れたような嘆息。
…相変わらずだ。まだお呪い(本人はおまじないと主張するが、全会一致でおのろいと判明)とかでないだけましだが。



「それから双葉はぁとりあえず十年たったら男を手玉にとるようないい女の人に成長して、峰不二子のよーに逞しく生きているので、弄ばれないように頑張って下さい。
 あとはぁ・・・」

 長い長い挨拶。既に10分が経過したと言うのに、彼女のトークは全く終わる気配を見せない。
終着点は銀河の彼方にでもあるのだろうか…。

「何故このような長い話を全員でおとなしく座って聞いていなければ成らないんでしょう?
これだけの時間と人数があれば気圏戦闘機が一機組めますね。
…不合理です。僕には理解できません」
 
 ぽつりと正宗は呟いた。
確かに長い。異様に長い。

「風水さん遅いな・・」

 入り口の方をふと振りかえって、勇二は思った。
なにかあったのだろうか。もう、式が始まってから数十分が経過していると言うのに。
 ちらりと時計を見て、菊一文字は焦った。
そっと近づいていき、ひとみに耳打ちする。

「それからね・・・ええっもう終わらせろ? じゃあ直ぐに全部言い終えるから・・・」

 すぅっと彼女は息を吸いこんだ。(ZIP32.DLL)
圧縮された音声が、高速で彼女の口から飛び出していく。

きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん・・・・・・・・・・・・・・!!!!!

 空気を振るわせる超音波。
びくりと怯えて霜月静は思わず泣き出した。

「びえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
 
 …まるで張り合うかのようにこっちも超音波。
無意識に増幅された鳴き声が相乗効果を生む。
パリンとグラスが、ワインのビンが、衝撃波で割れていく。

「あぁ!ど、どうしましょう〜」
 
 おろおろするアストライア。…おろおろするだけで何の役にも立たなかったりとかもするが。

「…しっ…静ちゃん! 泣かないでよお」

 わたわたなだめようとする一狼。いつのまにか犬耳…いや狼耳が出てしまっていたり。

『…続きまして、祝電(波)を……』
「淡々と続けないでくださいっ(汗)」



 一時中断。
自ら発した超音波でぱたりと気を失ったひとみを菊苑が搬出。
ついでに割れた食器や瓶を片付けていく。

「……ふぇーん、一狼おにーちゃぁん…」

 まだぐすぐすと泣き止まない車椅子の少女を、一狼はややうんざりしつつもあやしていた。

『えぇと…あの、予定を変更いたしまして、新婦にはお色直しに行ってもらっています。
 その間に祝電の方を披露させていただきます』

 何とか必死に段取りを進めようとする菊一文字。

「では…FGTIMESのネスレイ=バーグ様より祝電が届いております」
「………げ…」

 花模様のウエディング電報をフロゥリアが広げる。
僅かにレフティは嫌な顔をしたが、周りは気がついていなかったようだ。

『アー、ヨクシランガ、ダレカケッコンスルラシイナ。トリアエズオメデトウ。
ツイテハ、ササヤカナガラケッコンイワイヲオクル。タノシンデクレレバサイワイダ』

 読み上げ終わったフロゥリアは窓に向かって恭しく片手を差し伸べた。
宇宙空間を模したスクリーンの窓の外に色とりどりの花火があがる。
炎が彩る美しい花々は思い思いに輝き、その中に文字が浮かんだ。

  

「…やるじゃねーか……」

 意外にも送られてきた粋な計らいに、レフティは目を細めた。
こういうのも悪くない。



「お・ま・た・せ

 空色のカクテルドレスに着替えた双葉が新郎の元に戻ってくる。

「えぇ、待ってました。…そのドレスも綺麗ですよ?」

 にこにこと答える新郎。どんなときにもその笑顔の仮面は外れる事がない。

『では、新婦も到着いたしましたので、花束と記念品の贈呈を…』

 立ちあがりる新郎の腕に新婦はきゅっと抱きつく。
幸せそうに寄り添う二人。

「待って!」

 ばんっと入り口の扉があけられる。
息を切らして入ってきたのは空色のカクテルドレスに着替えた双葉!?

A「あ、あなた誰?!私の顔して出て来ないで!」

 驚いてうろたえる新婦。

B「その人は偽者よ!」
A「雄也さん、この人なんとかして?」

 困ったようににこにこしている新郎。

「どちらもお綺麗ですよ?」

 そう言う問題じゃない。

「…どうかしてるぜ。幻覚か?」
「違いますよチーフ。…僕にも見えますから」

「増えましたね」
「……増えてるな…」
「貰えるお嫁さんが2倍になって幸せも2倍なんじゃないでしょうか?」
「…違うと思うぞ?正宗。」

B「私のことわかるでしょ?」
A「愛してるなら私と偽者の区別ぐらいつくはずだわ!」

 新郎に詰め寄る二人の双葉。

B「雄也さんから離れて!」
A「きゃ!なにするのよっ!!」

 引き離そうとした双葉達は、もつれるように転ぶ。

「…ひどいわ。せっかくのドレスが台無しじゃない…。」

 パタパタとスカートをほろいながら立ちあがる双葉。

「何で偽者なんか出てくるの…?」

 パタパタとスカートをほろいながら立ちあがる双葉。

「やっぱりここってどうかしてるわ!」
 パタパタとスカートをほろいながら立ちあがる双葉………!?

「…また増えてる。」
「これで3倍です。よかったですね」

 良くない。

1「え・・?」
2「偽物が二人に・・・??」
3「あ…あれ?なんでまた増えてるの?!」
2「あなた達早く雄也さんから離れてよ!」
3「ねえ、誰が本物だと思う?」
1「私が本物よ!」

 新郎に詰め寄る三人の双葉。

「分裂増殖しても構いませんよ。(にこにこ)どなたも僕の大好きな美しい双葉さんです」

 構わなくないってば。

『では、花束と記念品の贈呈を…』

 ……淡々と進めるな。



さて、いよいよクライマックス!
増える新婦にのんきな新郎!
果たして本物の花嫁はどこに!?

って訳で、次回を最終回に予定しています。
それを踏まえた上で、打ち合わせの上行動をお願いしまする。

アクションの送り先はMainGate統括管理者
第3回締め切りは11月17日(水曜日)です。


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