文中の生徒名は、すべて仮名です。
入学式が終わり30分間の学活が始まった。
教室の後ろには、父母の方々が立っていた。
我が子の新しい生活に対する期待が、黒板を背にした私に強く伝わってきた。
私は静に語り始めた。
今日の入学式は百点満点です。
花田秀樹君は真剣な目でステージを見つめていました。山田聡美さんは校長先生のお話を頷きながら聞いていました。
皆さんの素晴らしい姿を見て、先生はとても幸せでした。
先生は3月に別れた卒業生に「この学級よりもっと素晴らしい学級を作ることが、皆さんへの恩返しです」と約束しました。
皆さんとなら、この約束が果たせそうな気がします。
これも、最初に入場し、最初に大きな声で返事をした赤川弘貴君のおかげです。
立派に責任を果たした弘貴君に拍手をお願いします。
教室響き渡る大きな拍手の中、弘貴は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
4月7日、新しく中学生となる34名との出逢いがあった。
私は自己紹介をした後、「先生をどこかで見たことがある人?」と聞いてみた。
7名の手が上がった。
亜里砂は兄が男子バレー部に所属していたこともあり、監督である私と大会の時に何度か顔を合わせていた。
雄一と秀子は姉を3月まで担任していたこともあり面識があった。
予想していた以上に、私を知っている生徒が多かった。
中学入学は、期待よりも不安が大きい。
「先輩は怖くないだろうか?」
「担任の先生は優しいだろうか?」
「勉強についていけるだろうか?」
そのためには、生徒を具体的事実でほめることである。
ほめることで、生徒と学級担任との間に信頼関係が生まれる。
これに成功すれば、新しい生活への不安は1日でなくなる。
生徒理解が十分でないこの時期は、出席番号1番の生徒をほめることから始めたい。
「学級づくり」の第1歩は、ここから始めたい。
出席確認をかねて、出席番号順に名前を呼ぶことにした。
生徒には、次のように語った。
入学式は、入場も新入生呼名も、このA組から始まります。
A組がきちんとできればB組とC組はそれを見習えばいいだけです。
A組が入学式成功のカギを握っています。
その中でも、出席番号1番の赤川弘貴君の責任は重大です。
弘貴君が大きな声で返事をすれば、C組最後の米川さんまで全員が大きな声で返事をするはずです。
何事も最初が肝心です。
先生は弘貴君に期待しています。
弘貴君は、きっと大きな声で返事をしてくれるはずです。
みなさんも、弘貴君に負けない大きな声で返事をしてください。
弘貴の目は真剣であった。
私は出席番号順に名前を読み上げた。
元気な声が教室に響いた。
この声を聞きながら、私は「楽しい1年間が過ごせそうだ」と実感した。
私は「全員合格です」と笑顔で言った。
生徒の顔に笑顔があった。
「誰の返事が1番良かったですか?」と尋ねた。
「赤川君です!」という声が返ってきた。
弘貴は私の期待に応えたのである。
次のように話し、入学式の会場である体育館に向かった。
入学式は約1時間です。
中学校生活のスタートにふさわしい姿を見せてください。
先生が皆さんにする初めてのお願いです。
では、廊下に並んでください。
入学式の翌日、1通の手紙をいただいた。
昨日、仕事の都合で入学式に参列できませんでした。
本来ならば、夫婦そろって先生に息子このことをお願いするべきところですが、申し訳なく思っています。
主人が家に帰ってくるなり「今度の先生はいいぞ」を繰り返していました。
大変失礼なお話で恐縮ですが、姉の入学式の時、担任の先生が「小学校では許されていたことも中学校では許されないことがある」という言葉を繰り返していました。
それでなくても期待よりも不安を持って入学しているのに、これでは子供達の不安は増すばかりです。
主人に学級で先生が話された言葉を聞き、安心しました。
今、宿題として出された30秒スピーチの練習をしています。
1年間、よろしくお願いします。
「集団の力」は、生徒一人ひとりが安心できる教室から生まれる。
「学級づくり」はそこから始まる。