調停制度の抜本的改革を!
高松地方裁判所の所長の調停についての見解

 高松地方裁判所の谷沢忠弘氏は、平成13年1月22日、四国新聞に、「国民の司法参加と民事調停制度」という随想を寄稿している。

 谷沢氏の見解によれば、「債務者の希望する分割があまりに長期にわたるとか、債務者の支払能力に疑問がある場合には、債権者の説得は難しく、合意が成立しないおそれがある。そこで、例えば、調停委員会は、その必要があり、かつそれが妥当なときは、債務者の親族などで経済的援助などをしてくれる人がいないかを聞き、いれば、これを前提に調停案を作成することもある。無論、債務者がこのような援助者を頼むか否か、頼まれた人が援助者になるか否かは全くその人の任意である。このように債務者の支払能力に疑問がある場合に、多数の債権者を相手に説得を行い、債務者の立ち直りに資する解決を図るのは根気と時間を要する」という。

 多重債務者はすべて、支払能力に疑問がある。多重債務者がなぜ、発生するかは、明らかである。債権者が資金需要者の返済能力を超えた過剰融資を行うからである。多くの場合、家族に『内緒』で金を貸す。貸金業者が金を貸す場合の審査項目に、「夫」「妻」「両親」に「内緒」か、「承知」かを確認する事項がある。妻に金を貸す時は、夫に『内緒』が否かを、夫に金を貸す時には、夫に『内緒』が否かを、子供に金を貸す時には、両親に『内緒』が否かを、聞くのである。『内緒』の人には、『内緒』ではない人より多額の金を貸す場合が多い。なぜなら、『内緒』で金を借りた人は、「一生懸命」返済するからだ。だって、「バレたら」困るから。このように家族に『内緒』で金を借りて多額の借金で返済不能になった人が、多重債務者という呼称で呼ばれる。

 裁判所に特定調停の申立てをする人は、多重債務者である。多重債務者が返済能力に疑問があるのは当然である。その多重債務者の調停において、親族等に援助を求めることを前提として調停をするという発想を、裁判所が行うことが、どうしても、理解できない。

 谷沢所長によれば、平成11年の全国の民事調停の申立ては、実に26万件であり、このうち67%が貸金業関係、12%が信販関係であるという。調停成立は44%、不成立は10%、取下げは33%、調停に代る決定は21%だという。
 分割払の調停において、裁判所が新たな債務負担者をつくり出すことに、疑問を持たないということは、どういうことなのだろうか。
 貸金業規制法では、支払義務のないものに支払請求をしたら、取立規制違反で、処罰の対象となり、行政処分の対象となる。
 裁判所が、調停で新たに援助者を調停に参加させるということの問題として、私は、次のように考える。

1、裁判所が新たな多重債務者を作りだす。
 国民は、すべて、基本的人権を保障されており、法律上義務なきことをさせられるということはないはずである。にもかかわらず、裁判所に調停の申立てをしたら、全く調停事件に関係のない人が、新たに債務者とされるということは、憲法上も許されない暴挙だと思う。

2、債権者の不平等
 債権者なら、誰だって、多重債務者ではない人が、新たに、調停に参加して支払義務者になってほしいと思うだろう。私が債権者だったら、私だってそう思う。しかし、そんなことはいけないことだと思って、我慢する。ところが、ある悪徳な債権者が、「申立人(債務者)は、支払能力に疑問があるから、第三者の援助者を参加させてほしい」と強硬に主張すれば、裁判所が、第三者をいれてくれるということなら、悪徳な業者、厚かましい業者ほど、得をすることになるのではないか。
 裁判所は、そんな理不尽なことをしてはいけない。と私は思う。

3、調停は、密室で行われる。申立人は、調停の席で調停委員や裁判官が話したことを後日明らかにすることは非常に困難である。調停委員が、裁判官が、そんなことをいうはずがない。ということで、片づけられる。

 調停の密室性を打破しなければならない。
 司法改革が声高く叫ばれているが、その中で、調停制度については殆ど問題にされていない。