なぜ、裁判所は、利息制限法による計算で
支払義務がなくなる債務者に支払義務を認める調停を行うのか?

 私は、四国のある簡易裁判所で平成10年7月に、調停を受けたA子(昭和17年5月生)の調停を分析した。その結果、次のようなことがわかった。

債権者名利息制限法による残金調停調書上の債務額
マルフク 153,660円570,592円
ユニマットレディース −124,329円325,262円
ニッシン −289,502円68,169円
アイフル −254,706円293,551円
武富士 22,167円571,524円
エルピス 80,134円96,153円
−492,710円1,925,251円

調停で決められた債務の内訳
債権者名残元金調停成立日迄遅延損害金将来利息
マルフク 498,770円71,822円なし
ユニマットレディース 258,532円66,730円18%
ニッシン 65,272円2,897円18%
アイフル 293,551円

武富士 485,841円

エルピス 89,040円7,113円

調停で決められた支払方法
マルフク
17条決定
平成10年9月から平成13年8月迄 16,000円
(但し、最終回10,592円)期限後の遅延損害金年36%
ユニマット
レディース
17条決定
平成10年10月から平成12年3月迄 8,000円
平成12年4月から平成13年9月迄 12,000円
平成13年10月から 15,000円
(但し、最終回は端数とする)期限後の遅延損害金年36%
ニッシン
17条決定
平成10年9月から支払済み迄 3,000円
(但し、最終回は端数とする)期限後の遅延損害金年36%
アイフル
17条決定
平成10年10月から平成15年3月迄 5,500円
(但し、最終回は2,051円)期限後の遅延損害金年36%
武富士
17条決定
調停の席上 8,000円支払
平成10年10月から平成15年9月迄 8,000円
(但し、最終回は5,841円)期限後の遅延損害金年32.85%
エルピス
17条決定
平成10年9月から支払済み迄 8,000円
(但し、最終回は端数とする)期限後の遅延損害金年36%

17条決定というのは、調停において合意が成立しない時、民事調停法第17条による決定という形式で、裁判官が出す決定である。17条決定の末尾には、次の記載がある。

事実及び理由
 申立人は、別紙記載の契約に基づく債務について、支払をなすべきところ、他にも多額の債務があるので、債務額の確定と債務支払方法の協定を求めるものである。
 よって、当裁判所は、調停が成立する見込みがない本件において、当調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方の公平その他一切の事情を考慮したうえ、職権で、双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要なものとして、民事調停法第17条により、主文のとおり決定する。
 なお、本決定に対して、当事者双方はこの決定の告知を受けた日から2週間以内に異義の申立てをすることができる。右異義の申立てがあったときは、本決定は効力を失う。どちらからも異義の申立てがなかったときは、本決定は、確定し、裁判上の和解と同一の効力を有することになる。


父死亡8年後、結婚した娘に
突如、多額の支払義務を認める17条決定

 四国総合信用株式会社に対する調停は次のようになっている。
 A子の夫Bは、平成2年7月20日に死亡した。Bは平成元年9月18日付けで200万円を銀行から借り入れた(年13%)。
 平成4年11月16日、四国総合信用株式会社は、保証委託契約に基づいて金116万8953円を代位弁済した。
 Bが死亡した時、この債務は、妻であるA子が相続する旨の遺産分割協議をしていた。A子は、懸命に支払をしていたが、支払ができなくなり、調停を申し立てた。
 簡易裁判所は、やはり、17条決定で、次の内容の決定をしている。娘3人を利害関係人として入れている。

 四国総合信用株式会社が代位弁済した求償金債務金170万6427円(残元金69万円・遅延損害金101万6427円)の支払義務があることを認める。
 利害関係人3名は、前記債務を各自3分の1ずつ連帯して保証する。
 平成10年10月から平成16年6月迄 金25,000円
 但し最終回は、6,427円を支払う。
 前記支払金は、遅延損害金、残元金の順に充当する。
 期限後の遅延損害金は、年18.25%


 A子の娘は、長女が昭和47年9月生、次女が昭和49年9月生、3女が昭和51年3月生であった。夫が死亡した平成2年7月当時、長女は17才で高校3年、次女は15才で高校1年、3女は13才で中学2年であった。
 A子は、夫名義の土地・建物を自己名義に相続登記し、夫が残した借金の支払も自分で行ってきたが、平成10年、大手貸金業者から、毎月の支払が大変なら、裁判所で調停をしてもらったら支払安くなるよと助言されて、調停の申立てをした。



驚愕する17条決定の内容
 債権者は、すべて、A子との間の取引当初からの取引明細を簡易裁判所に提出している。裁判所は、利息制限法による元本充当計算を行えば、過払いとなることが明らかな事例についても、債権者の帳面上の残元金に調停成立迄の間の遅延損害金、さらに、将来金利まで付して支払うよう命じる決定をしている。
 さらに、四国総合信用株式会社の関係では、本来、娘達にとって平成2年に死亡し、父親死亡後母親が単独相続する旨の遺産分割協議をした後、8年を経過した平成10年に、裁判所で本来の相続分以上の借金を支払えと言われたのである。
 しかも、元々、代位弁済した金額は、116万余円であるのに父親死亡後約8年を経過して裁判所が支払えと命じた金員は、170万余円である。
 さらに、四国総合信用に支払っていたときには、「元金優先弁済」であったが、裁判官は、「遅延損害金優先弁済」と決めている。  元金優先弁済とは、まず、支払った金額は、元金に入れていき、最後に、遅延損害金をまとめて支払っていくという支払方法である。
 遅延損害金優先弁済は、まず、支払った金額が、遅延損害金に入金されるというものである。
 そのため、この調停で決められた毎月の25,000円の支払は、遅延損害金の101万余円に入金されることになり、その後、支払が遅れて期限の利益を喪失したということになると、元金(69万円)の遅延損害金18・25%を支払わなければならないことになる。
 平成10年10月から、平成13年5月(32ケ月)迄、毎月支払った25,000円は、合計で80万円となるが、まだ、遅延損害金を支払終わっていないことになる。しかし、元金優先弁済なら、80万円を支払えば、元金の69万円は、支払済みとなるので、あとは、遅延損害金だけを支払えばよいとこととなる。しかし、この調停では、遅延損害金が支払終わっていないので、69万円は、毎年125,925円の遅延損害金が発生しつづけることとなる。

 一体全体、裁判官の頭の構造は、どのようになっているのだろうか。



 最高裁判所は、「貸金業関係事件執務資料」(法曹界97頁)に次のようなQ&Aが掲載されている。

Q.いわゆるサラ金調停において、申立人がいわゆるグレーゾーン内で減額した制限超過利息と元金を、調停委員の面前で相手方に支払、債務不存在を確認する旨の調停を成立させてよいか。

A.(協議結果)調停では、債務者に対し、利息制限法の利率を超える利息・損害金を支払わせることはできないから、本問のような調停を成立させてはならず、貸金業者が譲らないのであれば、調停に代る決定をするのが相当であるとされた。