任意の取り調べで
「指紋採取や写真撮影ってできるの?」

サイト掲載: 2012年 3月 5日

 私は、警察に財布を拾って届けようと思って、ポケットに入れたが、途中で落としたのかどうかわからないが、なくしてしまったらしく拾った財布がなくなったため、届出ができなかったということで、警察官に事情を聞かれているという人から相談を受けた。

「指紋をとってきてください!」

 Aさんは、事情を聞かれた後、警察官から、「指紋をとってくるように」と言われて、二人の警官と一緒に別室に行き、指紋を採取され、写真をとられ、身長を測定されたという。

指紋採取や身長測定、写真撮影などは、令状がなければできないのでは?

 刑事訴訟法第218条は、次のように定めている。

 犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索叉は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
 身体の拘束を受けている被疑者の指紋もしくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、叉は、写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、前項の令状によることを要しない。

 Aさんは、単に事情を聞かれているだけで、身体の拘束(逮捕・拘留)はされてはいない。
 私は驚いて、Aさんから事情を聞いたという警察官に電話をして、なぜ、Aさんの指紋をとったり、体重を測ったり、写真をとったのか聞いた。
 担当警察官は、しごく当然というふうに、指紋をとったり、体重を測ったり、写真をとったというふうに答えた。私は警察官に、Aさんは確かに財布を拾って届けようと思ったけど、ポケットに入れたはずの財布がなくなり届出ができなかったということで、事情を聞かれているが、逮捕されたり、拘留されたりしていないので、指紋をとったり、身長を測ったり、写真をとることはできないのではないかと質問した。
 警察官は、Aさんが、財布をとったということを認めたから指紋採取や写真撮影をしたと言った。
 Aさんが、財布を拾ったことは間違いないが、警察は、Aさんが財布を盗った(盗んだ)ということで事情を聞いていたようだ。
 どちらにしても、Aさんが、逮捕されたり、拘留されたりしていないことは間違いない。
 しかし、警察官は、Aさんが、最初、認めていたのでそのとき指紋をとればよかったと言い訳をした。
 私は、Aさんは、財布を拾ったことは認めているので、それが、「遺失物横領」という罪に該当することは間違いないが、身柄を拘束されていないので、指紋をとったり、写真をとったり、身長を測ったりすることはできないのではないかと重ねて質問した。
 すると、警察官は、しどろもどろになり、Aさんから同意を受けて、指紋をとったり、写真をとったり、身長を測ったりしたと言い出した。
 Aさんは、「指紋をとるけど、いいですか」などというよう同意は求められていないと言っている。

 私は、Aさんの弁護人として、警察に、次のような質問をした。

  1. Aさんが、指紋採取・写真撮影・身長の測定に同意したとご主張の場合は、
    どのような方法で「同意をとられたのか」同意書が存在するのか否かについて
    書面でご回答ください。
  2. Aさんの指紋や写真が、警察の記録として保存されることについては異議があります。
    データベースから、削除する手続きをとってくださるようお願いします。

 私が、この質問をしたのは、平成23年8月22日であるが、現在に至るまで回答はない。


指紋や写真は、何に使われるのだろうかで?

 警察は、指紋や写真をデータとして保管している。
 そして、同様の事件が発生したりした場合に、指紋や写真を使用する。
 刑事訴訟法に定める方法によらないで、指紋採取や、写真をとることは、「プライバシー権ないし肖像権の侵害」にあたり、違法である。
 同意なく指紋を採取されたり、写真をとられたことについて、データの抹消を求める国家賠償訴訟を起こしている人もいる。
 その事件を担当している弁護士は、訴状で、次のように述べている。

 この事件は、長年にわたって、現場の警察官のノルマとされている職務質問、任意捜査における被疑者の顔写真撮影及び指紋データ採取の違法な実情を問う訴訟である。警察庁は、各都道府県警に対し、各都道府県警は、各警察署に対し、各警察署は、各警察官に対し、職務質問のノルマを課すとともに、任意捜査における被疑者の顔写真撮影及び指紋データ採取もノルマとして課している

 捜査機関(警察官・検察官)による事情聴取について、全面可視化が問題とされているが、身柄を拘束されていない被疑者に対しては、令状がなければ、「指紋採取」や「写真撮影」「身長測定」は行ってはいけないと、はっきり、刑事訴訟法に定められている。にもかかわらず、日常的に、このような違法が行われいるということは、非常に問題だとと思う。