家電販売店最大手「ヤマダ電機」の驚くべき商法
カード利用者の利用について「本人確認義務」を負っていない!

サイト掲載: 2016年4月4日

 Aさんは、平成24年3月10日ころカードを盗まれた。
 最初にカードの盗難に気付いたのは、銀行のキャッシュカードがないことからであった。
 銀行に問い合わせたところ、預金が全額引き下ろされていた。
 Aさんは、すぐに、警察に盗難届を出した。
 Aさんは、銀行のキャッシュカードの利用者の映った防犯カメラの画像を警察官と一緒に見た。警察官は、「男性のようだ」と言った。黒いフードを被り顔を隠しているような骨格が男性のような人物が映っていた。

 Aさんは、クレジットカードを2つもっていた。イオンのカードとドコモのDCMXカードであった。Aさんは、日常的には、イオンのカードを利用していた。ドコモのカードは、携帯電話のポイントがつくということで作り、キャッシング・ショッピング等の利用は希望しないと契約書に書いて契約をした。Aさんは、カード利用時に暗証番号によって取引したことはなく、すべて署名であった。そのため、暗証番号も覚えていなかった。

 しかし、イオンカードが使えず、ドコモのDCMXカードが利用できた化粧品の購入にDCMXカードを利用していたが、キャッシュカードの盗難にあった当時、DCMXカードは、全く利用していなかった。そのため、DCMXカードをもっていることは忘れていた。

 Aさんは、キャッシュカードの盗難にあったことを知人に話したところ、知人からクレジットカードも盗まれたのではと言われた。Aさんは、イオンのカードは財布に入っていたので、盗まれていないと思ったが、念のため、イオンに問い合わせたところ、イオンカードで約70万円の利用がされていた。利用されたのは、3月11日と12日であった。
 Aさんは、驚いてすぐに警察に届け出た。そして、警察官に「イオンカードはあるんですがね」と言った。そして、イオンカードを警察官に見せたところ、それは、使用期限が切れたカードだった。

 3月末、DCMXカードからカード利用の請求書が送られてきた。Aさんは、驚いて、DCMXに電話をした。やはり、70万円程度利用されていることがわかった。
 Aさんは、すぐに警察に盗難届を出した。

 警察が調べたところ、札幌の店舗で、50代の男性が電化製品を購入したこと、そのとき、男性名義でポイントカードを作ったこと、男性が言った住所はなかったことが捜査の結果わかったと知らされた。

  Aさんのカードの暗証番号を、カードを盗んだ者がどうして知ったのか疑問だった。Aさんが運転免許の更新手続きをした際、公安委員会で2つの暗証番号を作らされる。公安委員会は、運転免許証の関係で暗証番号が必要となることは稀であるため、暗証番号を記載した紙を運転者に交付する。Aさんも、公安委員会が交付した暗証番号の紙を、財布に入れていた。二つの暗証番号のうち、一つがカード取引の暗証番号と同じだったようだ。

 Aさんのカード利用について、イオンカードは、全額盗難ということで、保険が適用されたため、Aさんは支払いをしなくてもよくなった。

 DCMXカードについては、ドコモが「署名」による取引についてのみ保険適用をすると主張したため、署名取引については、保険が適用となったが、暗証番号取引については、保険を適用しないので、支払えと主張した。

 Aさんは、ヤマダ電機の経営するテックランドでのAさん名義のカード利用について、損害を被ったので支払えとの訴訟を提起した。

 Aさんは、これまでの経緯から、男性がカードを利用した可能性が強いことから、女性名義のカードを男性に使用させたのは、本人確認義務に違反していると主張した。
 この訴訟でヤマダ電機が主張したのは、次のようなことだった。

ヤマダ電機とドコモが業務を委託している三井住友ビザカードとの間では、本人確認の方法はカードの署名欄の確認または暗証番号の入力によって行うとされている。

 正確な暗証番号が入力されたことを確認すれば、加盟店として本人確認に必要な義務は果たされたこととなる。
 カード会社に対して、ヤマダ電機が負う本人確認義務は適切になされており、ヤマダ電機には過失はない。
 Aさんのカードは極めて計画的に使用されているので、カード盗難を組織として行っている者による可能性が高く、男性ではなく、女性が使用した可能性がある。

 ところで、Aさんのカードを署名で利用した者は、Aさんの名前を間違って書いていた。即ち、Aさんのカードの裏面には、Aさんは、自分の名前を署名していなかったのである。
 大手量販店のレジのカウンターには、下記内容の紙を張っている。

・クレジットカードのご利用は、カード名義ご本人に限らせていただきます。
・クレジットカードの裏面にご署名が無い場合はお買い物出来ません。

 家電最大手のヤマダ電機は、販売を担当する社員(正社員か契約社員か、あるいは、パートかは不明)に、どのような教育をしているのだろうか。

 カード利用の「お客様」に対して「本人確認義務は負わず、カード会社に対してのみ負う」という主張には、驚くほかない。

 なお、本事件については、釧路簡易裁判所の裁判官は、次のようなことを理由としてAさんの言い分を認めず、ヤマダ電機の言い分を認める判決を出した。

  1. Aさんは、キャッシュカードの盗難に気付いたとき、なぜ、クレジットカードの盗難に気付かなかったのか。財布からカードがなくなれば財布の厚さからわかるのではないか。
  2. イオンカードの使用期限切れのカードを財布に入れていたが、新しく送られてきたカードがなくなったことになぜ気付かなかったのか。カードの使用期限が切れて新しいカードが送られてきた場合は、新しいカードを使用するために「なんらかの手続き」が必要であり、新しいカードが送られてきたことに気付かなかったのは不可解である。

 由利弁護士は、30年以上クレジット利用の多重債務相談や、不正利用の事件を担当しているが、使用期限が切れた後にクレジット会社がカード所持人の意向は全く聞かず新しいカードを送ってくることを知っている。裁判官が主張する新しいカードを利用する手続きとはどういうものかわからない。
 DCMXカードをもっていることを忘れていたのは、不可解である。
 運転免許時に交付される暗証番号を書いた紙を財布に入れていたのは重大な過失である。

 カード裏面の署名を確認するという極めて簡単な義務を果たさなかったヤマダ電機の責任は不問に付し、カード所持人に過酷な義務を課す判決には、驚くほかない。