北見専門店会事件

 北見専門店会が、顧客が債務不履行状況になった後、「支払い安くする」ということで、作成していた準消費貸借公正証書に、「利息制限法違反・割賦販売法違反の内容があり、そのような違法な公正証書を作成したのは、公証人の責任である」として提起したのが、北見専門店会公正証書である。

※この事件の顛末は、「増補版・裁判官!それはあんまりです!」第十話に紹介しています。

この事件に関する判決は、次のようになっています。

  1. 釧路地方裁判所平成5年5月25日判決(平成元年ワ第97号・105号)
    掲載誌 判タ187号・判時1477号
  2. 札幌高等裁判所平成6年5月31日判決(平成五年ネ第190号・209号)
    掲載誌 判タ872号
  3. 札幌高等裁判所平成7年5月10日判決(平成5年ネ第191号・210号)
  4. 最高裁判決平成9年9月4日第一小法廷判決(裁判所時報1203号第7面)



■釧路地方裁判所判決は、初めて、「公証人に実質的審査件権」を認めた判決と言われています。その判決は、次のように言っています。

「公証人は、債権者から提出された委任状その他の書類に基づいて審査し、法令違反の存在、法律行為の無効等の疑いが生じた場合は、もちろん、当該公正証書事務処理及びそれ以前の事務処理の過程で知った事情等から法令違反の存在等の疑いが生じた場合においても、債権者等に必要な説明を求めるなどして、違法な公正証書を作成しないようにする義務がある。」とし、被告国の「委任状その他の書類の審査に限られ、他の事情を一切考慮すべきでないことを意味するのであれば、当裁判所は右主張と見解を異にする」とし、単に「委任状その他の関係書類だけではなく」、「当該公証事務処理及びそれ以前の事務処理の過程で知った事情等も審査の資料に加えるべきは当然であり、そのことを公証人に要求しても、公証人に過大な負担を課することにはならない」としました。



■札幌高等裁判所判決(前記2)の認定は、次のようになっています。

「形式的審査とはいえ、聴取した陳述をそれ自体や嘱託者から提出された関係書類のみから審査すれば足りるというものではなく、前記(原判決引用)のとおり、公証人が当該嘱託に先立つ時点において職務上知った事実、事例によっては、この過程において知るべき義務のあった事実等もこの審査における資料とすべき場合もあり、このように解することが、前記公証人法及び同法施行規則が各想定するところを超える義務を公証人にかすることになるものと解することはできない。」
 この判決に対して、公証人会は、原審の判決よりも一部公証人の責任を重くした」と非難している。



■最高裁判所判決(前記4)

「公証人法は、公証人は法令に違反した事項、無効の法律行為及び無能力により取り消すことのできる法律行為について公正証書を作成することはできない(法26条)としており、公証人が公正証書の作成の嘱託を受けた場合における審査の対象は、嘱託手続の適法公正証書についても及ぶ者と解せられる。しかし、他方、法は、公証人は正当な理由がなければ嘱託を拒むことができない(法3条)とする反面、公証人に事実調査のための権能を付与する規定も、関係人に公証人の事実調査に協力すべきことを義務つける規定も置くことなく、規則において、公証人は、法律行為につき証書を作成し、又は認証を与える場合に、その法律行為が有効であるかどうか、当事者が相当の考慮をしたかどうか又はその法律行為をする能力があるかどうかについて疑いがあるときは、関係人に注意をし、かつ、その者に必要な説明をさせなければならない(規則13条1項)と規定するにとどめており、このような法の構造にかんがみると、法は、原則的には公証人に対し、嘱託された法律行為の適法性などを積極的に調査することを要請するものではなく、その職務執行に当たり具体的疑いが生じた場合 にのみ調査義務を課しているものと関するのが相当である。したがって、公証人は、公正証書を作成するに当たり、聴取した陳述(書面による場合は、その書面の記載)によって知り得た事実など自ら実際に経験した事実及び当該嘱託と関連する過去の職務執行の過程において実際に経験した事実を資料として審査すれば足り、その結果、法律行為の法令違反、無効及び無能力による取消等の事由が存在することについて具体的な疑いが生じた場合に限って嘱託人などの関係人に対して必要な説明を促すなどの調査をすべきものであって、そのような具体的な疑いがない場合についてまで関係人に説明を求めるなどの積極的な調査をすべき義務を負うものではないと解するのが相当である」



■公証人の研修について、公証人会は、次のように述べている。

「近時公証人任命予定者に対する研修を望む声もあるが、公証人に任命される者は、判、検事、弁護士として永年法律実務に従事し、これに通じているばかりでなく、人格、識見ともに優れた完成者であるか、多年法務に従事し、右の法曹有資格者に準ずる学識経験を有し、公証人審査会の選考を経た者で、法律問題その他に精通し、足らないところは自らの研究、修練によって解決できる力を有する者であるとするためか、公証人新任命者に対する研修は行なわれていない。
 仮に、初任者研修を行なうとしても、その実施主体はどこか(法務省か、日公連か)講師の選択、研修内容、時期と期間、費用負担など、どの事項についても種々の問題があり、具体化はかなり困難と考えられ、むしろ公証の実務の概要を就任後における自らの研究によって迅速に理解することのできる資料の整備に重点がおかれるべきであろう。(「公証制度百年史772頁)



感想

 私は、公証人は、法曹の先達として、優秀な法曹が就任されているのであるから、その知識・経験を完全に活用され、実質的審査権があるとの立場で、嘱託人を介助し、必要な助言を与えて、みんなに信頼される公正証書を作成されるべきであり、それは、十分に可能であると考えています。
 なぜ、公証人には、「形式的審査権」しかないと、自ら主張し、自らの権限を狭めたがるのか、それが、どうしても、理解できません。

 こんなことを考えるのは、あまのじゃくな者だけなのでしょうか?