商工ファンド公正証書国賠事件

 商工ファンドが、釧路に支店を開設してまもなく、商工ファンドから、「給料の差押えをする」と言われた連帯保証人C男から、相談を受け、商工ファンドに対する請求異議訴訟・強制執行停止の申立て、国と商工ファンドに対して損害賠償訴訟を提起した。
 平成5年から平成10年迄の間に、商工ファンドを債権者とする公正証書に関して5回、国賠訴訟を提起し、その内、3回は、和解している。その和解の内容の内、公正証書関係については、次のようになっている。

■釧路地方裁判所平成5年ハ第227号(和解期日 平成6年10月11日)

●商工ファンド関係部分
被告会社は、これまでの公正証書作成嘱託用のの記載内容に不明瞭な部分あるいは平易でない部分があったことを認め、今後右委任状の記載内容をできる限り明瞭かつ平易なものとすることに努めるとともに、右委任状の徴求に当たり、今後とも、債務者及び連帯保証人に対し公正証書の作成嘱託をすること及びその意義・内容を十分に説明することとし、また、利息の徴求あるいは債権の取立てに当たっては、貸金業の規制等に関する法律を遵守することを確約する。

●国関係部分
1 被告国は、公証人法施行規則13条の2所定の通知の履行につき周知徹底を図るとともに、今後とも引続き適正な公正証書が作成されるよう公証人を指導監督していく。

■釧路地方裁判所平成6年ワ第215号(和解期日 平成7年2月15日)
 本件は、主債務者が死亡したので返済を待ってほしい旨商工ファンドに妻が連絡した後、公正証書を作成したという事案であるが、前記とほぼ同内容の和解をした。

■釧路地方裁判所平成八年ワ第83号(和解期日 平成9年6月30日)
 本件は、主債務者会社の代表取締役が死亡し、主債務者の相続人は、相続放棄をしたという事案であるが、既に、利息制限法による元本充当計算をすれば、過払いとなっていることが明らかな状態において、連帯保証人(自営業者)の預金の差押えをして残元金残額を回収した事案である。連帯保証人が支払った全額の返還を認めた他、前述内容の和解をした。
 現在、旭川地方裁判所と釧路地方裁判所帯広支部に、各1件の公正証書にかかる国家賠償訴訟が係属している。釧路地方裁判所帯広支部事件については、「サラ金トラブル」第5話に詳細を記述している。

 ところで、商工ファンドを債権者とする公正証書の作成に関して、前記和解をした公正証書において、「委任状の記載内容が不明瞭であり、平易でない」部分があったので、改善すると、裁判所で約束したにもかかわらず,全く改善がなされず、同じ形式の委任状が用いられている。 

1.委任状の問題
・委任状の表面に記載されている内容は、次のような図表となっており、一義的に明らかではない。

賃借金額 賃借日
平成 年 月 日
利 率 実質年率 損害金40.004%
2,000,000 09.04.28〜09.06.05(木) 利息の支払いは
本日一括支払済
32 39.50
日歩 8銭000

この内容は、次のように理解することとなる。
 融資金  200万円
 貸付日は平成9年4月28日 返済日は平成9年6月5日 この間32日
 約定利率は、日歩8銭  実質年率は39.5%
 利息は、本日(平成9年4月28日)に一括支払い済である。

 この図表を、商工ファンドの社員以外の人は、すぐには理解できないのではないかと思う。
 この図表の意味するところは、利息制限法に違反する年29・2%(日歩8銭)の利息の他に、名目は利息ではないが、実質的には利息と解されるものが13・5%も支払わされており、その利息等は、支払い日に一括天引きされている。
 即ち、商工ファンドは、借主に対して、39・5%の利息を天引きして貸していることになるから、貸金業規制法に定めるみなし弁済の適用はない。従って、公正証書を作成するときには、借主が現実に受け取った額を記載せねばならない。

・委任状の裏面には、「乙(借主)は、同日付私書証書記載の金銭消費貸借契約に基づく借入金につき………」と記載されている。
 つまり、商工ファンドは、借主との間に同日付の私書証書を取り交わしていることが明らかであるから、公正証書を作成するときには、少なくとも、当事者間で取り交わされている「私書証書」を検討すべきではなかろうか。
 商工ファンドと借主・連帯保証人との間の契約は、いわゆる「継続的金銭貸借取引契約」であり、「根保証契約」であることは、商工ファンドが、つとに明らかにしているところである。即ち、5年間の期間を定めて、繰り返し金員を融資したり、返済を受けたりすることになっている。
 この場合、「新洋信販」の場合と同じく、「強制執行認諾」付の公正証書を作成することはできないこととなる。
 商工ファンドを債権者とする公正証書国賠事件において、次のような和解が成立した。

2.公正証書作成上の問題
・公正証書作成の手順は、次のようになっている。
・債権者(この場合・商工ファンド)が、債権者と債務者・連帯保証人の委任状を公証人役場に持参し、公正証書を作成してくれるよう依頼する。(この場合、債権者である商工ファンドの代理人も、債務者・連帯保証人である借主側の代理人も、商工ファンドの社員がなっている。これについては、双方代理であるから無効であると主張しているが、裁判所は有効だとしている。)
・公証人が、公正証書を作成する。
・公証人役場から、債権者である商工ファンドに対して、公正証書が作成されたとの連絡がある。
・公証人役場に、債権者である商工ファンドの代理人と、債務者・連帯保証人である借主側の代理人が、出向く。
・公証人は、二人の代理人の面前で、公正証書の内容を読み聞かせて、代理人が、間違いないと言ったということで、公正証書の末尾に、二人の代理人に署名・押印させる。
公正証書には、具体的に次のように記載されている。
「以上の各事項を列席者に読み聞かせたところ、一同その正確なことを承認し、下に署名押印する。」
・公証人が、最後に署名押印する。
公正証書には、具体的に次きように記載されている。
「この証書は、平成 年 月 日本職役場において法律の規定に従い作成し、本職下に署名押印する。」
・公正証書が完成する。
・ところで、公証人役場に出頭しているはずの商工ファンドの代理人が、現実には、公証人役場に出頭せず、別人が出頭して代理人の署名をし、印鑑を押捺しているのではないかということが問題となっている。
 即ち、「○○○○○」という女性が、商工ファンドの公正証書作成の担当部署の責任者であるが、その下に、女性職員が2名おり、公証人役場から「公正証書ができた」との連絡があると、この「○○○○○」が部下の女性を連れて、公証人役場に言って署名・押印しているというのだ。
 仮に、これが、事実であるということになると、次のような問題がある。
・公証人は、真実、代理人を確認しているのだろうか。
・公証人が、「面識がある」という商工ファンドの代理人(男性)と、現実に署名押印しているという女性とが、同一だと間違えるはずがないのではないか。
 これが真実だとすれば、公証人においては、「虚偽公文書作成」の罪が、商工ファンドにおいて、「公正証書原本不実記載」の罪が成立することとなるのではなかろうか。
 ちなみに、釧路地方裁判所帯広支部で、審理されている商工ファンドを債権者とする公正証書には、「金利」の記載がなく、「遅延損害金」の記載もないが、これは、公証人が「遺漏」したという。
 この公正証書を作成した公証人は、商工ファンドを債権者とする公正証書に関して国家賠償訴訟が提起され、前述のような内容の和解が成立していることは、知らないという。
 この公正証書国賠事件では、公証人個人にも重大な過失があったということで、被告としている。