日本信販公正証書国賠事件

 日本信販が、多重債務のため返済不能に陥った債務者に対して、特別融資という公正証書を作成し、強制執行をすると言われたという相談が平成2年ころから、多数寄せられた。その都度、日本信販が作成している特別融資という名称の公正証書には法的に問題がある旨警告した。しかし、日本信販は全く改めようとしなかった。そのため、日本信販を債権者とする公正証書に関して、国賠訴訟を提起した。平成6年9月のことである。
 国賠訴訟提起後、日本信販は、再契約制度について、次のような見解を公にした。「日本信販は、昭和26年創業以来、「消費者の豊かな生活のために」を理念として消費者信用事業におけるリーディングカンパニーとして、割賦販売法・貸金業規制法等を遵守し、社会的責任の重さを十分に自覚して業務を遂行してきたが、「多重債務者の救済と経済的立ち直りを目的として」昭和59年7月より「再契約制度(特別融資制度)」を実施した。
 この制度の対象となる顧客は、「既存債務の全部または大部分について現に履行遅滞に陥っており、残全額を一度に、かつ遅延損害金を付して支払わねばならなくなり、約定どおりの返済が不可能もしくは著しく困難な状況にある債務者である。
 このような場合には、債務者の法律上・経済上の地位は極めて不安定であり、債務者は合理的な返済計画のもとに安定した経済活動を行なうことが殆ど不可能となる上、多数の債権者からの催告による債務者の精神的苦痛や家庭生活・社会生活の疲弊を招き、ひいてはそのことが経済的立ち直りの妨げとなるという悪循環に陥ることになります。
 こうした事態を防止するために、既存債務の履行期を猶予する事により、債務者の経済的立ち直りを図り、カウンセリングに基づく合理的な計画のもとに返済を実行させることを目的として準消費貸借契約を締結することには十分な合理性と必要性があるのであり、殆どの場合、再契約を遵守することにより、従前の期限の利益を喪失した契約を続けるよりも支払総額が少なくなり、毎月の支払金額が軽減されるなどの消費者にとって大きな利益となる当社の再契約制度には合理性・必要性が認められるべきと考えます。」
 ところで、日本信販が作成していた準消費貸借契約には、次のような問題があった。

  1. 日本信販が行なっている貸金業務には、貸金業規制法第43条のみなし弁済の適用はなく、訴訟を起こした場合には、利息制限法1条1項に基づく元本充当計算を行なわねばならないことになるにもかかわらず、再契約においては、このような措置は全くとらないどころか、一部将来金利や遅延損害金を元金に上乗せするいうものであり、債務者にとって極めて不利益であった。

  2. 日本信販が行なっている個品割賦購入あっせん契約(いわゆる、クレジット契約)の場合、遅延損害金が年6%に制限されているにもかかわらず、再契約の場合には、「10万円から100万円未満の場合は、年18%、100万円以上の場合は年15%の利息を付して支払う」という内容となっていた。従って、これは、明確に割賦販売法に違反するものであった。


□ 日本信販は、支払いが遅れがちになった顧客に対して、「支払いやすくしてあげる」と言って再契約をさせ、多くの場合は、支払い安くするためには「連帯保証人」をいれなければなならないと言って、新たに連帯保証人をいれさせ、前述のような脱法的な内容の公正証書を作成していた。  そのため、日本信販が再契約によって作成していた公正証書に関して、国賠訴訟を提起したところ、日本信販は、次のように主張した。

  1. 日本信販は、自ら貸金に関して訴訟を提起する場合には、利息制限法による元本充当計算を行なっていながら、再契約に関しては、「みなし弁済の適用がある」業務を推進していると強行に主張した。

  2. 割賦販売法の個品割賦購入あっせん契約に関しては、遅延損害金が年6% 制限されているが、準消費貸借契約になった場合に、遅延損害金率を15%(100万円以上)、年18%(10万円から100万円迄)にすることについては通説・判例がないと主張し、正当であると主張した。


 しかしながら、前述した日本信販の再契約制度が、多重債務者のために有利な制度であるとするならば、訴訟になった場合よりも、過重な返済をせねばならなくなる制度に問題があることは明らかである。
 判決では、明白に日本信販の公正証書は違法であるとされた。
 しかし、公証人には責任がないとされた。

□ 日本信販は、再契約に関する準消費貸借契約公正証書に関して「当社の再契約制度は、割賦販売法及び利息制限法等に違反するものではないため、この再契約制度に基づいて作成された公正証書は適法かつ有効なものであります」と主張していたが、判決では、明白に「違法」である旨断定された。この点についての日本信販の公式な意見表明は一切ない。
(日本信販の見解は、1994年3月15日発行の「くれじっと情報4月号」9頁以降「日本信販は主張する」に詳しく述べられている。前記、日本信販の見解は、この文章から引用した)