ジャックス大型空売り事件に関する判決

加盟店は、信販会社の履行補助者!
顧客に対する説明義務あり!
信販会社は顧客が不正契約に巻き込まれることを防止する義務がある!
加盟店による不正契約が長く続いていると信販会社の過失割合が大きくなる!

との判決でる。
 釧路簡易裁判所は、平成12年3月23日、ジャックスによる大型空売り事件に関して判決をしました。


一、事案の概要は、オリエントと三善屋事件と同じである。

 三善屋は、当初、地元の協同組合釧路専門店会(現名称 日専連釧路会)と、ジャックスとのみ加盟店契約を締結していた。

平成2年9月にオリエントと加盟店契約を締結。
平成6年12月、ジャックスが三善屋と加盟店契約をやめた時期には、ジャックス・オリエント・セントラル・日本信販の4社と加盟店契約を締結していた。
三善屋による不正契約には、当初、日専連釧路会やライフの契約もあったが、徐々に少なくなり、三善屋倒産時点では、全くなくなっていた。
日専連釧路会の不正契約が少ない原因の一つは、日専連釧路会が、呉服等の契約については、支払い期間を1年以内としたことが大きな原因ではないかと思われる。それは、女性が呉服等を購入する場合、一年程度で支払い終わる位のものが適切だと判断したという。従って、購入金額の大きいものは契約が少なくなったという。

三善屋倒産時点の被害の全容
信販会社名人数契約数残金額
(手数料含む)
1ケ月の
支払い額
ジャックス88名141件56,950,615円1,658,200円
オリエント60名84件39,398,738円3,106,680円
セントラル46名63件35,933,296円1,078,200円
日本信販 8名10件4,310,040円183,500円
合  計 202名298件136,592,689円6,026,580円

  三善屋は、平成7年4月ころ、毎月600万円以上の不正契約をあげねばならない状況に追い込まれていた。

二、判決概要

割賦購入あっせん業者である信販会社は、濫用・悪用の危険性を孕む契約類型である個品割賦購入あっせん契約の一当事者としての地位に基づき、信義則上、通達の趣旨にのっとり、名義貸し等の手段を用いた加盟店の不正行為が行なわれないように、一方で、加盟店契約締結後も、加盟店に対する厳密な信用審査及び指導監督を実践する付随義務を負い、他方で消費者の契約締結意思の確認を厳格に履践する付随義務を負っているものと解すべきである。
原告は、三善屋を履行補助者として本件契約締結のための準備的行為をさせていたことが認められ、そうすると、右準備的行為をさせるに際し、原告としては、法律上の義務及び契約的関係にあることに伴う信義則上の義務として、本件通達の趣旨に照らし、被告が契約の仕組みを正確に理解できるように説明を行い、被告が三善屋からの依頼で自己の名義を貸して虚偽の契約を締結しないような明示的措置を講じるべき説明義務を負っていたものと解するのが相当である。
 そこで、以下過失相殺の可否及び割合につき判断するに、民法418条は債務不履行に関し債権者の過失が加わった場合に債務者の責任及び損害賠償額を定めるについて債権者の過失を考慮すべきことを定めているが、この趣旨は、債務不履行によって生じた損害を債権者と債務者との間において公平に分担させるところにある。そうだとすれば、債務不履行となった債務自体の発生・成立の過程で、既に右債務不履行の原因が存在し、その原因の発生・形成に関して債権者の過失がある場合にも、債務不履行よって生じた損害に債権者が寄与しているという状態に変りはないから、こきよ うな場合にも民法418条を類推適用して、過失相殺をすることができるものと解するのが相当である。
右を前提に検討を加える。

1 購入者の意思確認義務違反
 契約締結意思の確認手続は、人定事項はともかくとして、「契約書の記載事項及び契約締結意思の確認については、単に「はい、はい」と答えさえすれば切り抜けられるような形で、確認作業を進めたにすぎず、被告は、その程度の応対をすることで足りた。又、本件契約書には、本来存在すべき割賦販売手数料の存在と数額といった割賦販売法法所定の事項について、その記載を欠くなどしていた上、被告において本件契約書の完全な控えを交付されていなかったのであるから、本件各契約書の内容と口頭の回答内容との齟齬や言い淀みを契機とし、名義貸し及び空売りの契約を捕捉し得た可能性があった。
 しかし、原告は、意思確認の作業の際に、単に、被告の本人確認をした上で、契約内容及び商品購入意思について、単に「はい、はい」と答えていれば済むような形で、概括的に確認し、被告が肯定する趣旨の返事をしたことをもって満足し、それ以上の確認をすることをせず、それがために、容易に捕捉することが可能であった名義貸し能力空売りという事情を看過し、本件契約を成立させるに至ったものと言わざるを得ない。即ち、原告は、その経済的効率性追及の観点から、名義貸し及び空売り契約防止の効果的な方法をとることを怠ったものと評価することができる。そして、右の事由は、前述の民法418条の趣旨に照らして過失相殺を基礎づける事由となりうる。

2、加盟店に対する調査義務違反
 原告は、各加盟店ごとに「加盟店チェックシート」という加盟店信用状況についての調査結果を記載した書類を3か月に一度作成し、5か所の関係部署に回覧することとしていたものの、それが有効に機能していたとは認められない。そうして、原告が三善屋と加盟店契約を締結した後である昭和61年に、三善屋は店舗が火災にあって焼失し、その後急速に信用状態が悪化していったが、原告はその点について特に問題とすることもなかったし、原告内部においてとりたてて三善屋が調査の対象とされることもなかった。三善屋は、名義貸しを承諾させた顧客に対し、右承諾を待って作成した契約書の控を殆ど交付しておらず、しかも、契約書の一部には、原告の与信審査をとおりやすくするため、年齢等を偽ったものもすくなくなかったのであり、原告において、意思確認の調査を日常的に的確に行なっていれば、三善屋による不正契約を捕捉し、実効的な加盟店調査をなし得たにもかかわらず、右あるべき意思確認の手続を履践していなかった。また、三善屋に対し、右意思確認を実効的なものとするための前提となる契約書の記載事項を割賦販売法等所定の記載事項として必要かつ十分な ものとするような指導も徹底して行なうことができなかった。原告とすれば、入金状況や入金場所さらには同一の顧客の他の契約の締結、、履行状況を追跡、調査することによって、不正契約の存在を認識できく態勢をとることができたが、実際にはそこまでの措置はとっておらず、個々の担当者の認識にゆだねられていた。(後略)

(結論)
 本件弁論に現れた一切の事情を総合的に考慮すると、原告は、加盟店の確保と立替払契約の処理の経済的効率性の観点等を重視するあまり、名義貸し契約の防止のために割賦購入あっせん業者として行なうべき消費者の契約締結意思の確認の手続や加盟店である三善屋に対する信用調査及び指導監督の実施・継続を必要かつ十分なものとしてとっていなかったというべきであり、また、そのことが一因となって三善屋による名義貸し契約を可能にし、ひいては、被告との本件契約が締結されたものといえるから、公平の観念に照らし、民法418条を類推適用することとし、原告の過失割合について諸般の事情を斟酌し、さらに以上の状況は、年を追ってより明確に、担当者としてもプロとして容易に知り得る事実が加速度的に累積されていったのであるから、この事情をも斟酌の上、原告の過失割合は、平成三年の契約については、三割、平成四年の契約については四割、平成五年の契約については、四割五分、平成六年上半期の契約については五割、同下半期の契約については五割五分とするのが相当である。

三、判決による結果

被告数  72名(判決 72)
事件数 115
契約数 123
請求棄却 15名
抗弁の接続を認めるもの2件
契約に関与していないとするもの1件
妻が夫名義の名義貸し契約を承諾したが、夫は知らないとして請求を棄却したもの1名
加盟店に頼まれて二重契約となっていた件につき加盟店の代理受領権限を認めず全額の支払いを命じたもの1名(2契約)

請求総額  49,268,815円
認容額   15,113,739円

四、感想

1、いわゆる「名義貸し」被害の根本的な問題は、最初に名義を貸した人と、後から名義を貸した人とでは、圧倒的に後から名義を貸した人が不利になるということです。なぜなら、前に名前を貸した人の分は、後から名前を貸した人の契約によって入手した金で支払われるからです。早くに名前を貸した人は、何もしなくても、支払い金額がゼロになり、最後のほうで名前を貸した人は、極めて多額の返済義務が残存することとなります。

 本件判決は、基本的な考え方は、先に出された釧路地方裁判所の判決と同じですが、このような不公平ななくすために、不正が長く続いていることについて、後になるほど割賦購入あっせん業者の責任を重くするという考え方を示したことだと思います。

 ジャックスの場合には、一番最初から、三善屋を加盟店にしており、ジャックスの責任は重大だと考えています。
 本件判決の中でも、一人が複数の契約名義人となっている場合について、個々の契約を各別に判断しているため、次のような問題があります。

 A子 平成三年契約  過払い金215,429円
    平成四年契約  過払い金  8,160円
    平成五年契約  残元金  60,659円

 判決 金60,659円を支払え。

 前記の結果を相殺勘定すると、金162,930円が過払いとなります。
 今回訴訟となった全部についてみると次のようになります。

    商品代金     69,857,940円
    手数料額     10,769,278円
    本訴請求金額   49,268,815円
    判決認容額    15,113,739円
    過払い清算後の額 12,092,373円

 過払い清算後の額というのは、訴訟になっている事件で発生した過払い分を清算した場合の残金ということです。
 しかし、すでに、全額支払済となっている不正契約が多数あるため、ジャックスに対しては、すでに、支払う分はないと考えています。