証拠隠滅と刑事裁判!

 今、福岡高裁の裁判官の妻のストーカー事件が話題になっています。この事件については、種々の問題があり、私の率直な感想は、「言語道断、あってはならないことだ」というに尽きます。誰が考えても、「身内の事件こそ、慎重に、疑惑を招かないように」というのが、原則であり、報道されているようなことは、許されるべきことではないと考えます。
 私は、この報道に接して、「他人に厳しく、身内に甘い」現在の司法のあり方に率直に問題があると思い、私の意見を述べたいと思いました。

 私は、弁護士になって満26年になります。
 この間、刑事事件の弁護人として刑事事件を担当したことも多数あります。釧路に来たのは、昭和51年です。釧路に来て数年は、年間50件位の刑事事件を担当しました。勿論、その殆どは、国選弁護人としてです。
刑事事件の流れについて、全くご存じない方もあると思いますので、その流れを簡単に書きます。

逮捕 → 勾留 → 起訴 → 公判(審理) → 判決

逮捕は、最大72時間です。この間に裁判所に勾留請求という手続を行い、裁判所が勾留を認めると、勾留されます。
勾留は、最大20日、特別な事件についてはさらに、5日間認められますが、これは、通常の事件ではありません。勾留は、10日ですが、さらに、勾留延長という手続があり、10日の延長が認められれば、さらに10日の勾留されます。この間に、起訴するか、しないか、を決めることになります。

勾留されると、弁護人としては、「保釈請求」という手続をします。保釈が認められない場合の殆どの理由は、「証拠隠滅のおそれ」というものです。
私が、証拠隠滅のおそれを理由に、保釈が認められなかったもので、特に、疑問をもったのは、次の事件です。

1、無免許運転
 無免許運転は、その殆どは、警察官が現認(現場で確認)して捕まります。
 無免許運転は、明確です。無免許であれば、否認のしようがありません。
 無免許で逮捕されるというのは、珍しいのですが、私はいくつか弁護人として関与しました。無免許運転で逮捕・勾留された被告人の弁護人として、保釈請求をして、「証拠隠滅のおそれ」を理由に、保釈が認められなかったことについては、本当に唖然としました。
 私が聞いたところでは、直接の無免許運転については、証拠隠滅はできないが、何度も無免許運転をしていることについて証拠隠滅のおそれがあるということのようです。例えば、自分で運転して近所のガソリンスタンドに行き、ガソリンを入れている場合に、そのガソリンスタンドに行って、警察官が来ても、そのようなことを言わないでほしいと頼むようなことが考えられるというのです。

2、接見禁止
 被告人が勾留されている場合に、接見禁止という手続がされることがあります。
 これは、弁護人以外の身内の人などと面会できないという手続です。
 関係者がすべて刑務所か警察署に収監されており、面会の可能性がないような場合でも、「接見禁止」となる場合が多くあります。
 勾留されている場合に、身内の人と面会することがどんなに、切実かは、経験した人以外にはわからないと思います。特に、身内の人は、被告人と面会し、元気でいるかどうかを、弁護士からではなく、直接、会うということがどんなに「安心」なことかは、ゆうまでもない。特に、勾留されている人に面会する場合、弁護人以外の場合には、立ち会い人がそばにつく。つまり、被告人は、弁護人以外のものと会う場合には、一人では会えないから、証拠を隠滅するようなことを話すことはできないし、もし、そのような話をしたら、立ち会っている者が、話をやめさせることができる。
 それでも、否認事件や、関係者が多い事件は、接見禁止となる場合が多い。
 先日も、私が担当した事件で、接見禁止がついた。
 関係者は、すべて、警察署か、刑務所(未決)にいるので、会うことなんかできないし、証拠隠滅をすることなど考えられないが、それでも、接見禁止がつく。

 このような現実の取扱が、あまりにも刑事訴訟法の精神に反していると言われているし、そう思うのだが、それが、現実の取扱である。

 それに比較して、今回問題となっている福岡高裁裁判官の妻の刑事事件の取扱は、明らかに問題があるというより、法律に違反していると思う。