多重債務者の借金を家族が全額返済すると必ず再発する!

 私は、昭和53年10月、釧路弁護士会のサラ金対策委員になった。それから、今日までサラ金対策委員ということになっている。

1、昭和53年10月から昭和58年位迄の債務整理
 昭和53年から昭和55年頃まで、相談にのったすべての事例について、調停の申立てをした。当時、裁判所は、多重債務者関係の調停について、特別の扱いをするという方針を出した。それは、印紙代を一律300円とし、成立時に不足分を貼るとか、相手方の資格証明の添付を不要とする等である。釧路弁護士会がサラ金対策委員を置いたのも、弁護士会が率先して置いたのではなく、裁判所から、多重債務者の調停は、申立人の多重債務者だけでは、対応が困難と思われるので弁護士会で相談にのれる体制はとれないのかという話があったからだった。

釧路方式の調停
 釧路簡易裁判所での多重債務者調停は、すべての取引明細を業者から出してもらうこと、全額一括払にするということであった。

 当時の貸付け金利は、最高年109・5%であり、武富士等の大手でも、50%を超えていたから、短期間の取引で過払いとなった。裁判所の書記官は上田という方で、非常に熱心だった。上田さんが、業者に対して根気よく取引明細を出すよう説得され、計算をすべてされ、一生懸命であった。私達、申立人代理人の弁護士は、相談にのるとすぐに、全事件について調停の申立てをして一括返済のお金が準備できるまで期間を置いてもらい、一括返済のお金ができると、半日で、20分おき位に調停事件をいれて、次々と調停の場で支払をした。

 いろいろなことがあった。調停の場で、話をきめて支払おうとしたところ、サラ金の代理人が、私の相談者を指さして、「この人は、昨日、銀行から金を50万円借りた。」とか、「この人は、今でも、1週間に一度は、麻雀荘に出入りしている」などと指摘されて、驚いて、相談者(申立人)に聞いたところ、そのとおりだということになり、一旦、調停をやめにしてもらって、別の期日を入れてもらったなどのこともあった。

 当時、他の簡易裁判所では「分割払」の調停が行われていたということで、この方式は、「釧路方式」として評価されていたと聞いている。上田さんの次は、佐々木さんという書記官が非常に熱心に、調停業務を行われ、釧路方式は軌道に乗っていた。

 しかし、この方式が使用できなくなったのは、なかなか一括払の返済資金が準備できなくなったことと、裁判所の担当者に問題が発生したことだった。


2、昭和58年7月、8月以降の任意整理
 私は、多重債務が発覚し、驚いて家族が返済資金を準備して返済したら、またお金を借りたという相談を多く受けるようになった。又、私は、このころから、一旦、家族が返済資金を準備して解決した人が、また再発して、多重債務者となったという相談を受けるようになった。

 家族は、「先生にお願いして支払ったら、もうお金は借りられないと思っていたのに、どうしてお金が借りられたのですか?」と私に言った。

 私は、最初は、それは、多重債務者が、自分からお金を借りに行ったのだと思った。
 しかし、どのような経過で、お金を借りたのかを聞くと、極めて多い割合で、「自分から借りた」のではなく、「お金を借りてほしいという勧誘の電話があった。」
「お金を借りてほしいというダイレクトメールが来た」ということをきっかけとして借りたという人が多いことに気がついた。特に、家族が多重債務者の債務の全額をいわれるままに支払ったケースでは、お金を借りると言った額が、数万円程度でも、「実績がありますから、口座に50万円を振込ますから、ついでの時に、契約書を書きにきて下さい」と言われて、希望額以上のお金を借りさせられたという事例もあった。それは、その都度、介入通知に記載して、業者の貸方に問題があることを指摘した。

 特に、最初の債務整理の際、家族がお金を銀行等から借りて支払ったところ、その債務の返済が終わらない内に、またサラ金からお金を借りたという事例が出てくるに及んで、私は、家族に返済資金を準備してもらって債務整理をすることは、極めて問題だと考えるようになった。

 それから、私は、自分で作った借金は自分で解決するのが最も大切だと、多重債務者にも家族にも話すことにしている。
 家族が、返済資金は、銀行から借りて準備しますというような場合でも、私は、「少なくとも、1年間、家計簿をつけてきちんと生活てきるかどうかみてからにして下さい」と説得する。
 それには、いろいろな理由があるが、その主な理由は、次のようなものだ。



 まあ、いろいろあるが、多重債務者の債務整理では、借りた本人が、とことん、高利の借金に懲りて、自分で返せないような借金をしないように、なってくれなければならない。

 私が一番心を痛めた債務整理は、夫が一生懸命になって妻の借金を整理した後、離婚になるというケースだ。
 それも、夫から離婚をいうのではなく、妻から離婚をいうなどというケースでは、なぜか、自分が悪いことをしたようなつらい思いをする。