月収40万円なのに、どうして電気代が払えないの! 債務整理の相談は難しい!

2006年 8月 3日

 一件だけヤミ金を借りたので助けてほしい。
 8月1日、主婦が相談にきた。
 2万円を借りて、1週間で15,000円の利息を支払い、35,000円を支払って完済している。それを3回繰り返している。

「なんのために借りたの?」
「生活費です」
「生活費って、何よ?」
「電気代を払うためです。」
「あんたね、お金が足りないときには、市役所に相談に行くようにと言ったでしょう。緊急融資という制度もあるの!」

 この主婦は、平成9年から債務整理の相談中である。最初は、きちんと家計簿をつけていくらかずつ返済資金を送ってきていた。しかし、この数年、全く家計簿も送ってこず返済資金も送金してこないため、債務整理はまだ終わっていない。

「電気代って、1ケ月位遅れても切られないよ。2ケ月遅れたら切られるけどね」
「2ケ月遅れていた」
「月収は幾ら位あるの?」
「40万円位です」
「そんなにあるのに、なんで電気代が払えないの!」
「………」
「あんたの給料は幾ら?」
「10万円位です」
「だんなは?」
「30万円位です」
「給料日は?」
「私が10日で、主人が15日です」

由利弁護士は、ヤミ金への支払の経過を書いた用紙をみていた。

「ヤミ金から借りてたの、これ、7月20日でしょう!」
「はい」
「だんなの給料日から5日しかたっていないんじゃないの!」
「………」
「だんなの給料、何に使ったの!」

 由利弁護士の声はだんだん大きくなっている。

「………」
「黙っていたらわからないじゃないの!」
「………」
「まだ、ほかにヤミ金があるんじゃないの!」

 主婦は下を向いてうなずいた。

「どこにあるの?」

主婦は、手提げ袋の中から振込票を出した。

「これ8万円も払っているの!」
「はい」
「幾ら借りたの?」
「5万円です」

振込票は何枚もあった。

「あんた、これ隠してどうするつもりだったの!」

由利弁護士は、遂に「切れた」。事務所中響くような大きな声でどなった。
事務員が何事が起こったのかと顔をあげた。相談者の主婦は、大きな声で泣きだした。

「泣いたって、騙されないわよ!」

 主婦は、驚いて、すぐに泣き止んだ。

「あんたね、泣いたって、どうにもならないのよ。他にもあるんじゃないの」

 由利弁護士は、それから、この主婦が借りていたヤミ金に電話をした。

「高い金利と分かっていて借りたんだ、払い過ぎだかなんだか知らないけど、返すつもりはない!」
「貸した俺たちだけが悪いのか!」
「高い金利とわかって借りたほうにも問題はあるんじゃないか!」
「口座の凍結、どうぞ、幾らでも口座なんか準備できるんだよ、弁護士さん!」
「弁護士さんね、あんた電話番号で俺たちが特定できると思っているんだろうが、できないね!教えてやろうか。一回、外国に飛ばしているのよ!」

 いろいろとヤミ金から教わった。言いたいだけ言わせて、払い過ぎた金を返せ、今後、一切電話をするなといって電話を切った。
 一旦切った電話が、またかかってきた。

 「あのなあ、あいつは昨日、俺のところに25,000円貸してくれって電話がきたんだよ。貸せねえって言ったから、あんたのとこに言ったんだろうが、もう、そんな電話するなといっといてくれ!」

 由利弁護士は理解した。相談者は、そのヤミ金に別のヤミ金への支払のための金の借入れを申し込んで断られたのだ。それで相談にきたが、前日、借入れの申込をしたヤミ金は言わなかったのだと。


反省

 多重債務の相談は難しい。
 中でも、ヤミ金は難しい。
 「これで全部です」と言っても、隠していることが多い。
 相談をするときの「気分」、ゆっくりした気分で相談にのっているときと、別の相談者が待っているとか、裁判所にいかなければならないなどのことで、急いでいるとき、相談者が言っただけですべてと思って処理する。
 しかし、1件でも残っていたら、相談者は救われない。すぐに、又、ヤミ金地獄に陥る。そして、「嘘を言った」ということから、「まだ、ヤミ金から借りている」という相談ができなくなる。
 ヤミ金にしろサラ金にしろ、多重債務者の最大の被害者は、未成年の子どもである。

 由利弁護士は、怒鳴りながら反省していた。
 そして、こんなに「怒鳴る」と恨まれるかなと思ったりした。