控訴趣意補充書

サイト掲載: 2012年 4月 23日


控訴趣意補充書

平成20年 6月18日

札幌高等裁判所刑事部    御中

弁護人   今   瞭 美

前記被告人に対する頭書被告事件について、控訴趣意補充書を提出する。

  1. 車両等は、夜間、道路にあるときは、政令で定める前照灯・車幅灯・尾灯その他の灯火をつけなければならない(道路交通法第52条1項)。
     保安基準で定める灯火の基準は、次のようになっている。
     すれ違い用前照灯  40メートル
     走行用前照灯   100メートル(白色・淡黄色・障害物確認ができるもる。
     車幅灯      300メートルの距離から確認(白色・淡黄色・橙色)
     車両等が、夜間、他の車両等と行き違う場合または、他の車両等の直後を進行する場合において、他の車両等の交通を妨げるおそれがあるときは、車両等の運転者は、政令で定めるところにより、灯火を消し、灯火の光度を減ずる等灯火を操作しなければならない(法第52条2項)と、定められている。
     即ち、夜間の走行は、走行用前照灯(100メートルの視認距離がある)をつけて走行することが原則である。
     他の車両等と行き違う場合や、他の車両の直後を進行する場合には、すれ違い用前照灯(40メートルの視認距離がある)にしなければならないこととなっているのである。
  2. 検察官は、夜間釧路湿原付近の交通閑散とした道路を前照灯を下向きにしたまま時速80キロメートル以上の速度で走行する車両は、決して珍しくなく、被害者による被告人車両側面のサイドマーカーランプの発見が遅れることも、夜間街路灯の明かりが全くない真っ暗な道路では十分に起こりうることである、旨主張し、被告人に過失があるとする。
     しかしながら、夜間の運転は、昼間に比べて視界が悪くなるため、特に注意をして慎重な運転をしなければならない。
     視界の範囲について、運転教本(社団法人北海道指定自動車教習所協会編集・発行)には、次のように記載している。
     夜間の視野は、ヘッドライトに照らし出される範囲に限られます。昼間とちがって見え方が異なる(コントラストしか分からない)ので、歩行者や自転車などの発見が遅れます。特に、速度を落とし、十分注意して運転します(179頁)。
     さらに、行き違い又は追従しているとの前照灯の操作ついて、次のように記述している(180頁)。
     対向車と行き違うときは、相手を幻惑させないようにライトを下向きにします。又、追従するときは、バックミラーの反射によって前の車の運転者を幻惑させないようにライトを下向きにします。
     夜間視力について、高齢者の安全運転−優良運転者であり続けるために−(社団法人北海道指定自動車教習所協会編集・発行)は、次のように記載している。
     夜間視力
     夜間視力にも加齢による変化が生じます。(中略)
     車で外出する場合は、ヘッドライトの照射範囲ない(左ライト40メートル・右ライト20メートル)で止まれる速度で運転したり、対向車の迷惑にならない範囲でヘッドライトを時々上向きに切り換えるなど、早めに危険を発見すくように心がけましょう(27頁)。
  3. 前記したような自動車教習の教本には、明確に、夜間は、「前照灯の照射範囲で、危険を察知して止まれる速度に落として走行しなければならない」ということが、記載されている。
     検察官は、「夜間釧路湿原付近の交通閑散とした道路を前照灯を下向きにしたまま時速80キロメートル以上の速度で走行する車両は、決して珍しくなく、被害者による被告人車両側面のサイドマーカーランプの発見が遅れることも、夜間街路灯の明かりが全くない真っ暗な道路では十分に起こりうることである」、旨主張している。
     しかしながら、この主張は、数々の道路交通法で定められた運転者が、遵守しなければならない義務に違反することを是認するものである。
     夜間走行する場合には、前照灯を遠目にするという原則を守らなくてもよいとするものである。検察官が主張する「交通閑散とした道路」においては、どのような運転をしても運転者は危険がないとでも主張するようであるが、本件道路は、夜間「鹿」が飛び出してくる危険があることから、特に注意して走行するようにとの表示がある道路である。「鹿」にぶつかり、車両が大破したという事例は、多数ある。車の大破だけで、終われば幸運であるが、大怪我をしたなどの事例もある。
     さらに、「人」が走行していることもありえる。
     自動車運転者なら誰でも、前照灯を近目(すれ違いビーム)にして走行すると、車両のすぐ前までしか見えず、速度を出すことなどできない。遠目(走行ビ−ム)にして、ようやく視界が広がるのである。
     夜間、検察官の主張によれば、「夜間街路灯の明かりが全くない真っ暗な道路」を近目(すれ違いビーム)で走行するようなことは、危険極まりないことであり、自動車運転者が、そのような運転をすることはありえない。
     検察官は、無謀な運転をすることを当然とし、そのような無謀な運転をする運転者があることを予測して運転をするようにというものである。
  4. 検察官は、「被告人が、本件事故を予見して回避することが可能である限り、被告人の過失が肯定される」とする。
     しかしながら、本件において、被告人は、300メートル以上右方に、被害者車両を認め、被害者車両が、通常の運転者が行うような運転をする限り、安全に右折できると考えて右折をしたものであること、証拠上明らかである。
     即ち、被告人が、縷々検討したような無謀な運転をするような運転者がいることまでも予測して右折を開始しなければならないということになれば、被告人が運転していたような長大なトレーラを牽引したトラックは、右折をすることはできない。
     被告人には、本件事故を予見して回避することはできなかったこと明白である。

添付書類
1、運転教本(50頁・179頁)
2、高齢者の安全運転(27頁)
3、灯火及び合図(79頁)