堕ちたワンマン経営…
…追跡・武富士盗聴事件(週刊東洋経済)



 週刊東洋経済2003・12・20号は、武富士について次のような記事を掲載している。

堕ちたワンマン経営
株価下落に怯えた首領
徹底解剖・武井一族の株式支配
1st 追跡・武富士盗聴事件

 カリスマはなぜ卑劣な行為に及んだのか。裏には高株価でなければ支配を維持できない構図があった。

「一連の盗聴についてはすべて私が指示したものであり、私に全責任があります」−−カリスマ経営者からの“獄中メッセージ”は、これまでの主張を180度転換した呆気にとられるものだった。電気通信事業法違反(盗聴)容疑で警視庁に逮捕された武富士創業者の武井保雄容疑者は、自らの犯罪に対する自白を始め、その日のうちに、会長職を退任した。12月8日付け。勾留7日目での豹変だった。


依然としてくすぶる次男への権力委譲

 起訴を待たずの退任。この素早い動きは周到に練られたシナリオが動き出したことを意味する。これまで武井前会長は、表向き盗聴疑惑を否定し続けた。一部稟議書の印鑑偽造や入退出簿との照合などで関与は否定できるとの自信を最後まで持ち続けていたようだ。実際、逮捕直前の11月28日には東京地検に潔白を訴える上申書を提出していた。が、一方顧問弁護団との間では、逮捕に備えた次善の策の準備をひそかに進めていた。

 逮捕後、弁護団の一人は、「会長辞任のカードを切って起訴猶予に持ち込む」と口走っていたという。女性スキャンダルで失脚した則定衛・元東京高検検事長をはじめ、弁護団の大半は“ヤメ検”だ。さすがに起訴猶予は無理としても、早めに切り札を切ることで捜査を終結させ、早期保釈を勝ち取るというのが、彼らならではの対抗戦術だ。

 このシナリオの延長線上に、次男の健晃専務への政権委譲があるのは間違いない。退任したとはいえ、武井前会長の影響力が急激に衰えることはない。早期保釈で“院政”を敷き、政権委譲の地ならしをすればいい。「お飾りにすぎない」(関係者)とも揶揄される野村証券OBの清川昭社長に現在の武富士を統率する力がないのは明らか。生え抜きの近藤光常務執行委員が中継ぎに起用されるとの説もささやかれている。(中略)


「ありえない人事」後継候補への社員不満

(前略) ところで、二人の息子の入社を境にカリスマの輝きが曇り始める。

 93年に次男の健晃氏、95年に長男の俊樹氏が武富士入りしたが、武井前会長は、社内でも長男を「トッちゃん」、次男を「タケちゃん」と呼んではばからず、親バカぶりをさらした。

 俊樹氏は主に財務部門に携わり、2000年には専務に昇格した。社内での評判も悪くなかった。ところが、翌年に突如退任してしまう。香港での株取引で損失を出したことが原因といわれたが、「後継者としての重圧に耐えられなくなったのだろう」元社員)

一方、営業部門を歩む健晃氏はしだいに「暴君として振る舞うようになった」(別の元社員)。99年に営業統括本部長に就任すると、それに拍車がかかる。取り巻きを重用する人事がまかりとおり、現場の正しい情報が武井前会長に届かなくなった。この元社員は、「健晃氏の総指揮下でお客様第一主義が業績優先主義に変わり、ノルマ達成のため無理な貸し付けが増えた。お客様が頼んでもいないのに銀行口座に勝手にカネを振り込む行為など、かつての武富士では考えられなかった」とも話す。

 それでも武井前会長は健晃氏への“会社相続”に固執する。「前会長は幹部社員に対して、健晃さんへの忠誠心を試すことが多くなった」(元社員)ともいう。多くの元社員が「ありえない人事」として眉をひそめる次男へ継承に、武井前会長は遮二無二突進しようとした。


明るみに出た株式支配の全貌

(前略) 武井一族の支配の拠り所が、「過半数の株式を握る「資本の力」にあることは論をまたない。しかし、それは、何とも危うい構造の上に成り立っている。実は、武井一族とそのファミリー企業郡は今年8月下旬以降、過去5年余りもさかのぼる形で金融庁に株式大量保有報告書の提出を始めた。資料は、積み上げると1メートル近く。その膨大な資料を分析すると、「武井王国、崩壊の危機」とも呼べるような驚くべき実態が明らかになった。(後略)


株価下落が続けば王朝は瓦解する

(前略) 武富士株を担保に差し出している先は実に70社。担保提供株数の合計は8150万株。これは、発行済株式の実に57バーセントに当たる。直近の株価で計算すると資産価値は約4000億円。正確な借入額は不明だが、掛け目を6割とすると2400億円を越える可能性がある。(中略)

 01年1月以降、ファミリー企業が武富士株の売買を頻繁に繰り返している実態もわかった。(中略)

 元社員によると、武富士では株価が急落した2000年秋、社員に自社株を買えとの指示が下された。ファミリー企業の「東亜」が年利約4バーセントで購入資金を貸すというもので、「武井前会長からの要請で半強制的だった」と語る元社員もいる。

 武富士の浮動株比率はきわめて低い。そもそも武富士の株価は歪んでいた可能性がある。だが、こうした買い支えはもう通用しない。コンプライアンスに敏感な外国人投資家が売りに回る懸念を含め、株価が長期低落する要素は少なくない。株価が限界線を割り込んだとき、武井一族の支配は瓦解する。


この記事には、「武井一族支配の全容」とする図解と、「武富士株の6割近くが金融機関東の担保に入っている!」とする担保差入先金融機関等の一覧表が掲載されている。