武富士元女性店長、健康被害と残業代で、武富士を提訴!



 武富士にパートで入社した後、20年間勤務し、店長を最後に、退職した広島の元店長が、武富士在職中基本的人権を無視した労働環境の下で受けた精神的苦痛に対する損害賠償訴訟を提起した。

 私のHPにも、女性店長だった人から、武富士在職中の過酷な労働環境の下、病気になったなどの訴えが寄せられている。

 この女性店長の武富士での労働環境と訴えの要旨は次のようになっている。

慰謝料の請求額   金550万円
残業代の請求額   金819万6755円


 Mさんは、昭和59年に入社して平成15年5月23日に退社した。


本件各請求の概要

 本件は、原告が、被告に在職中、被告から過大な労働を不当に強制され、さらに所持品検査の強制及び債務保証の強要を内容とする違法な業務命令に服することを余儀なくされ、そのために健康、プライバシー及びその他人格権を著しく害されたことにより被った精神的損害の賠償を求めるとともに、これとあわせて在職中の時間外労働に対する未払い賃金の支払いを求めるものである。


1、武富士の過大なノルマとその強要

(1)武富士の抱える様々な問題

  1.  武富士は、消費者金融の最大手であり、テレビ、新聞等のメディアにおける広告や街頭でのティッシュ配布等の大量宣伝により、多数の一般消費者を対象に利息制限法所定の制限利率を上回る高い金利で貸し付けを行い、その業務内容を拡大させてきた東京証券取引所一部上場企業であり、現在でも高い収益率を誇っている。

     武富士は、その従業員に対しては、過大なノルマ、長時間のサービス残業、頻繁な降格人事及び懲戒処分の乱発等、問題のある人事政策を採用、展開し、その従業員に対して過度な締め付けを行ってきた。未収金が発生した場合にはそのペナルティとして従業員に債務保証を強要するなど、多くの従業員がものを言えない状況に置かれている。

     また、最近では、武富士による、債務者の親族など本来支払い義務のない者に対する取り立て行為(いわゆる「第三者請求」)の違法性がマスコミ等で報道され社会問題化するとともに、武富士の元代表取締役会長が武富士に批判的な記事を書いたジャーナリストや反抗的な従業員に対する盗聴を指示しそれを実行させていたことが明るみとなり、この元会長及び武富士を被告人とする刑事事件にまで発展している。

  2.  以下では、まず、過大なノルマを設定してその達成を従業員に強要するという武富士の全社的な業務形態の概要を説明した上、項を改めてMさんへへの加害行為及びそれによる被害の実態を示す。

(2)業務形態

  1. 武富士の支店に対する指示系統

     武富士の基本的な指示系統は、本社営業統括本部 → 支社 → 地区部→ ブロック → 支店 → 一般社員となっており、営業(貸付勧誘等)及び回収管理(返済請求等)のノルマも地区、ブロック、支店ごとに課されていた。

  2. ノルマの内容

     武富士の設定するノルマの内容は、大別して、「営業」と呼ばれる貸付関連のノルマと「管理」と呼ばれる貸付金の回収に関するノルマに分けられている。

     「営業」ノルマには、貸付残元本の増額ノルマとその増額のための貸付勧誘のダイヤル件数のノルマがあり、「管理」のノルマには貸付金の回収金額のノルマと返済請求のダイヤル件数のノルマがある。

  3. ノルマの設定と進捗状況の常時監視

     上記のようなノルマは、月単位、週単位、日単位、さらに1〜3時間単位で細かく設定され、全社的にオンラインで繋がっているコンピューターの画面上において指示される。そして、この指示を受けた各支店は、ノルマを課された事項について、その進捗状況(具体的には、顧客に電話を何回かけて、貸付ないし返済の約束をどれだけ取り付けたか)をコンピューターに入力することとなっており、その状況は常時、営業統轄本部によって監視されている。

    また、午前8時30分、9時、午後6時30分、7時、8時の5回、全社的に繋がれた有線による社内放送があり、営業統轄本部から支店に対し、「〜時までに〜件」などと時間を切って達成すべきダイヤル件数等の指示が店内放送される上、その達成状況が良くない支店を名指しして叱責する放送がなされることもある。

  4. ノルマ達成の強要

     それぞれのその期間内(時間内)にノルマを達成できなかった場合、支店長は、支社長又は営業統轄本部にノルマ未達成を電話で報告し謝罪することが義務づけられているが(この報告のことを社内用語で「悲報」という)、ノルマが達成できる支店はほとんど無いため、報告時間には「悲報」の連絡が殺到し支社長らへの電話はなかなかつながらない。

     この「悲報」を連絡した場合や、期限前でもノルマの進捗状況が思わしくない場合は、営業統轄本部や支社長から支店長に電話が入り、ヤクザ口調で罵声を浴びせかけられ徹底的に罵倒される。このように、上司から罵倒されることは、社内用語で「バキ」と呼ばれている(「罵声」と「檄を飛ばす」からとった造語である)。

     また、達成状況の芳しくない支店には、本社または大阪支社の検査部検査員ないし営業統轄本部員が不定期に抜き打ちで訪れる。このことは、社内用語で「臨店」と呼ばれている。この臨店において、営業統括統轄本部員らは、支店長ら支店の従業員を激しく叱責、罵倒することが常態であり、支店の従業員に対する所持品検査も実施される。また、この「臨店」の場で暴力が振るわれることも珍しいことではない。

     さらに、ノルマ達成状況の芳しくない支店の支店長は、当日中に支社に出社するよう呼び出され、支社にて営業統轄本部及び支社の者から激しく叱責、罵倒され、夜遅くまで謝罪と反省の弁を強要される。

     「バキ」、「臨店」や支社への呼び出しの際、支店長が、営業本部員や支社長ら上司に口答えなどしようものなら、直ちに解雇・降格などの不利益処分が下されるため、支店長は叱責、罵倒に堪え、絶対服従の態度で謝罪を繰り返すほかない。

  5. こうした、営業統轄本部や支社からの支店長に対する日常的な脅迫的言動により、支店長や支店の従業員は、日々戦々恐々としながらノルマの達成に追いまくられるため、支店に勤務する被告従業員は肉体的・精神的に疲労困憊し、追いつめられた状況にある。


2、Mさんに対する加害行為の具体的内容

(1)過大なノルマ達成の強要

  1. 平成9年ころから、武富士では支店に課されるノルマが急激に過酷なものとなっていった。

     貸付残元本の増額ノルマは、従前は各月1200万円増から1300万円増とされていたものが、各月2000万円増ないし3600万円増をノルマとされるようになった。N市は有権者数が約3万人程度の規模の街であるが、N支店では約3300口の貸付口座がすでに存し、総貸付金額は概ね23億円程度であり、このような状況で毎月2000万円以上、貸付残元本を増額させるのは著しく困難であった。

     また、貸付金の回収ノルマは、毎月の締日までの未回収金を支店の総残元本の0.1ないし0.12パーセント以内とするノルマが課されており、N支店の総残元本は当時約23億円程度であったから、当該月の未回収金を230万円ないし276万円以内とするよう求められた。顧客の中には、所在不明の者や多重債務に陥り支払不能の状態にある者も多数存するため、上記のような回収ノルマを達成することも著しく困難であった。

     さらに、上記のような貸付残元本の増額ノルマや貸付金の回収ノルマを達成するために、電話での貸付勧誘や取立てを行う回数が週単位、日単位、さらに1〜3時間単位でノルマとして設定された。例えば、「午前11時までに300パーセント」といった指示がなされた場合、当日午前11時までに、当該顧客に対し、貸付又は返済の約束がとれない限り、3回電話しなければならない。このような指示により、MさんらN支店の従業員は、毎日、約300件もの電話をかけるよう要求された。なお、Mさんが後記Cのとおり支店長に就任した後には、多いときで、一日600件もの電話をかけるようノルマを課されたこともある。N支店の従業員は支店長を含めて3名であり、上記のようなノルマは到底、果たせるものではなかった。

  2. 平成9年以降、N支店のノルマの達成状況が悪いことを理由に当時の支店長(Mさんの前任者及び前々任者)が大阪支社に呼び出されるようになった。このようにして、支社に呼び出された支店長は支社や営業統括本部の者から「指導」の名目で徹底的に罵倒された上、暴力を受けることも少なくない。N支店長も、大阪支社に呼び出されるたび、当日中に大阪支社に出張し、翌朝、青白い顔をして大阪から始発で支店に帰って来ていた。

     大阪支社長からは、Mさんら当時の従業員に対しても、ノルマが達成出来なければ支店長を本社に呼び出す旨の脅しの電話がかかって来た。

     このため、MさんらN支店の従業員らは、何とかしなければ支店長が倒れてしまうと本気で思い、精神的に追いつめられた状況でノルマ達成のため働いた。ある日、この支店長は印鑑やバッチ等を置いたまま行方不明となり、新しい支店長がN支店に配属となったが、その後も支社からの恫喝は絶えず、Mさんら三次支店の従業員はそれまでと同様、日々戦々恐々としながらノルマ達成のため必死に働いた。

  3. 平成14年8月、MさんはN支店の支店長に昇格したが、武富士から求められるノルマの過酷さは上記アのとおり変わりが無かった。当時のN支店の従業員は、入社後1年経たない男女各1名とMさんの3名であり、1人が集金又はティッシュ配布に出れば、店内に2人しか残らず、武富士の課すノルマはいずれも到底、達成不可能なものであった。

  4. このため、Mさんは、支店長になってから後は、様々なノルマが達成できない場合、一日に何度も謝罪の電話を大阪支社長ないし営業統轄本部に掛けなければならなかった。また、ほぼ毎日、多いときには日に3〜4回も営業統轄本部ないし大阪支社長から電話で罵倒された。さらに、大阪支社へも2度呼び出され、営業統轄本部の者から罵倒され、謝罪と反省の弁を夜遅くまで強要された。

(2)違法な所持品検査

  1. 武富士の検査部検査員や営業統轄本部による支店への検査(前記1,(2)D参照)は、Mさんの勤務するN支店に対しても行われたが、平成9年頃から、その態様は支店従業員の個人的な所持品の検査にまで及ぶようになった。

     なお、武富士における検査部とは、武富士の各支店の業務が適正に行われているかどうかを検査する名目で設置されている部署で、他の部署とは別格の部署である。

     この抜き打ち検査の具体的な実施内容は、検査部検査員が、早朝、N支店の従業員が出社する前から支店前に待ちかまえており、従業員が出社した後、直ちに従業員全員が個人で所持している携帯電話を提出させ、携帯電話に記録されている発着信の日時、相手方や、発着したメールの内容を記録用紙に書き取り、その上で従業員を1人1人呼び、通話相手について、これは誰かなどの取り調べを行うというものであった。

  2. Mさんは平成9年以降、何度もこの抜き打ち検査を受けたが、平成15年1月頃おこなわれた抜き打ち検査では、退職した元店長とメールのやり取りを本社の検査部検査員に見られ、不正行為を疑われて追及される憂き目にあった。そのメールの内容は、元店長が郷里に帰るため荷物整理をしていた際、武富士の大事な資料(全国支店長会議の議事録)が出てきたため、武富士に返却するためMさんに渡したい旨の内容であった。

     この時の検査を行ったのは、本社検査部長Sで、MさんはSに対し、上記のようなメールの趣旨を説明したにもかかわらず、信用してもらえず、携帯電話会社からMさんの携帯電話の通話記録と着信記録を取り寄せて本社検査部長宛てに提出するよう命令された。

     仕方なく、Mさんは携帯電話に記録の取り寄せを依頼したが、記録が残っていなかったたため、それを提出することはできなかった。

  3. 検査員は、携帯電話のみならず、N支店に勤務する従業員らのロッカーの中身、机の引き出しの中身、個人の所持するバックの中身、ポーチの中のほか財布の中まで検査を行った。財布の中については紙幣・貨幣の枚数からカード類、通帳などを全て調べ、カードについてはそれぞれ何のカードかを質問し、Mさんはスーパーのポイントカード、ビデオのレンタルカード等すべて説明しなくてはならなかった。さらに、Mさんは自家用車で通勤していたため、Mさんの自家用車のトランク、ダッシュボードの中まで検査を受けた。

     Mさんは、こうした「持ち物検査」と称される所持品検査を退職直前まで強要され続けた。

(3)Mさんに対する顧客の債務の保証の強要行為

  1. 会社も黙認していた内規違反の貸付

     平成13年頃から、武富士の各支店においては、武富士の有する信用情報の不正操作や信用情報機関からの顧客情報の不正操作等、本来、武富士の設定した貸付基準に違反する融資を実行するよう命じられるようになった。

     M支店においても、信用情報の不正操作等を大阪支社副支社長、岡山地区部長、広島ブロック長などの上司から指示され、指示されたとおりに武富士の内規に違反する不正な貸付(融資してはいけない顧客への貸付や、利用限度額を基準以上に上げての貸付等)が行われた。

     そして、このような内規違反な貸付は、検査部の検査においても黙認されていた。平成14年4月頃、検査部の検査員らがN支店に検査に訪れた際にも、内規違反の貸付については何ら問題とされず、支店の成績もBランクとされた(武富士においては、支店の成績はAからDランクまで格付けされ、Aが一番良くDに近づくほど悪くなるが、本来、内規違反の貸付があれば当然Dランクとされるべきところであった)。

  2. 検査部検査員による債務保証の強要

     Mさんが支店長に昇格してしばらくした平成14年10月頃、本社検査部検査員2名がN支店に検査に訪れ、従前からのN支店における内規違反の貸付を理由に支店の成績をDランクとした上、内規違反の貸付については支店長に責任があるとしてMさんを責め立て、Mさんに対し「始末書」・「顛末書」を作成するよう強要した。さらに、内規違反となる貸付について、Mさんがその全ての弁済を武富士に対して保証する内容の書類(「債務保証書」)を作成するよう強要した。

     この債務保証の内容は、内規違反の貸付に関して武富士に不利益が生じた場合は、Mさんが身元保証人であるMさんの夫と連帯して残元本及び金利を一括にて支払うというもので、しかも支払いを保証する金額は貸付違反部分の金額ではなく、対象となる顧客らの当時の債務残高全額(正規の貸付残高も含めた金額)で、総額約1200万円にのぼった。

     Mさんは、支店長であるという理由だけで多額の債務を保証させられることに強い憤りと大きな不安を感じたが、検査部員から恫喝され、仕方なくこの「債務保証書」に署名押印した。

     Mさんは、1200万円もの借金を抱えたことを身元保証人である夫に告げることもできず、自殺まで考えた。


3、Mさんの被った被害

(1)前述のような、武富士から課される過大なノルマ、その不当な強制、検査部員による所持品検査は、その都度、Mさんに対して大きな精神的苦痛をもたらすものであった。

 このため、Mさんは、平成10年頃から、仕事のことを考えると精神がたかぶって眠れなくなり、睡眠が不足する状態が慢性的となり、また、常時身体がだるく、集中力もなくなったため、病院で睡眠剤(ハルシオン)、安定剤(デパス)などを処方され、服用するようになった。現在までに、N病院精神科、K内科医院、T内科、Y病院などで投薬を受けてきた(甲第1号証、同2号証・診断書)。

 Mさんは、平成14年8月に支店長に昇格した後、武富士によるノルマ達成の強要、これを達成できなかった時の上司による罵倒(「バキ」)によりMさんが被る精神的苦痛はさらに増大し、また所持品検査によりあらぬ疑いをかけられたり、いわれなく債務保証を強要されたことで、Mさんの精神的苦痛は増幅、蓄積されていった。

(2)そして、Mさんは、このような精神的苦痛の蓄積に起因してうつ状態、適応障害となり(甲1,同2)、退職した現在まで体調が回復せず精神安定剤を常用している。


4、武富士の責任原因

(1)不法行為による損害賠償責任

 前記2のとおり、武富士がMさんに対して行った過大な労働の不当な強制、所持品検査の強制や顧客の債務の保証の強要は、武富士の業務命令の一環としてなされたものであるが、Mさんの人格権ないしプライバシー権を著しく侵害するものであり、その違法性は明らかである。

 そして、Mさんは、平成9年以降、退職するまでの間、武富士による継続的な人格権侵害行為ないしプライバシー権侵害行為に曝されたことにより、前記3のとおり大きな精神的損害を被った。

 したがって、武富士は、不法行為によりMさんの被った精神的損害を賠償する責めを負う(民法709条)。

(2)健康配慮義務違反による損害賠償責任

 雇用者である被告は、Mさんとの労働契約に附随する義務として、労働者であるMさんが労働によって健康を害さないよう、労働時間などの労働条件や労働環境を整える義務(安全配慮義務ないし健康配慮義務)を負うところ、前記2のような業務命令によりMさんの心身に過大な負担をかけ続けてきたものであるから、武富士がこの義務に違反したことは明らかである。

 したがって、武富士は、健康配慮義務違反によりMさんの被った精神的損害を賠償する責めを負う(民法415条)。


5、損害額

(1)精神的損害

 武富士の違法行為(不法行為ないし健康配慮義務違反行為)は、使用者と従業員という支配従属関係を利用し、Mさんの人格、プライバシー、健康に対する配慮を一切欠き、Mさんに対し、継続的な恫喝をもって武富士への隷属を強いたものであり、その態様は悪質である。他方、かかる違法行為により、Mさんは、現在まで残存する健康被害を被っているのであり、その精神的苦痛は深いものがある。

 このような事情に鑑みると、本件によるMさんの精神的苦痛を慰撫するためには、金500万円の慰謝料が相当である。

(2)弁護士費用

 Mさんは、武富士に対する精神的損害の賠償を求めるべく、本訴を提起せざるを得なかったが、その弁護士費用は金50万円を下らない。


6、損害賠償請求のまとめ

 よって、原告は、民法709条ないし同法415条に基づき、被告に対し、550万円の損害の賠償を求める。




第3 未払賃金請求


1、武富士におけるサービス残業の実態

(1)武富士が、その従業員に対し、過大なノルマを不当に強制している実態は前述のとおりであり、上司らによる恫喝に畏怖する従業員らのサービス残業によって武富士の業務が成り立ってきたといっても過言ではない。

(2)武富士の支店社員は、通常、午前7時には支店に出勤し、早朝の街頭でのティッシュ配布やPR台帳の選別(その日の借入れ要請を行う顧客の管理台帳の準備)を行い、これが一段落した午前8時10分から請求を開始する。午後6時に閉店してから、夜請求を開始し、請求業務やPR台帳の選別作業を行うため、午後9時すぎまで勤務するのが常態である。

 また、休憩時間は就業規則上、正午から午後1時まで1時間となっているが、N支店では午前11時から12時までと、午後1時から午後2時までの交代制で各従業員の休憩を割り振ることとなっていた。しかしながら、Mさんを含む従業員は、現実にはこの時間帯も請求業務等にかかりきりになっており、昼食も顧客等の電話をしながら短時間で食事するのが常態であり、休憩をとることができなかった。

 支店業務の流れは、おおよそ次のとおりである。

午後7時〜午後7時30分    出社 ティッシュ配布
午後8時10分         朝請求開始 掃除
午前9時20分         朝礼
午前9時30分         開店
午前11時30分〜午後3時   時間帯請求
午後4時〜午後7時30分    フォロー請求
午後8時ころから9時00分すぎ 夜請求〜終業


 そして、このような支店業務の流れは、どの支店でもほぼ一律であり、本社からの業務指示に基づいて行われている。

 したがって、武富士の支店社員は、通常午前7時から午後9時までは、必ず支店業務に従事しており、連日4〜5時間の時間外労働を行っている。

 さらに、土曜日の出勤を命じられることも多く、日曜、祝日に勤務させられる者もいる。

(3)ところが、武富士の時間外手当は、一般社員に対してのみ一律定額で支給されるだけであり、恒常的に高額の残業代の未払いが発生している状況にある。また、女性従業員は男性従業員と比べて、定額の時間外手当の支給額がさらに低く抑えられている。

 また、支店長になると、時間外手当の支給はまったくない。武富士の支店長業務は、業務内容が本社から細かく指示されて、さらに業務内容を逐一チェックされているものであって、時間管理の自由は全くなく、労基法41条の管理監督者には該当しないことが明白であるにもかかわらず、時間外勤務手当を支給していない。

(4)所定休日である土曜日の出勤も多いが、これらについて、就業規則に記載されている労働契約上の休日勤務手当が支給されることはないばかりか、月曜〜金曜日までの勤務で、週法定労働時間である40時間を超えるのが常態であるため、労基法上の割増賃金の支払い義務も発生しているが、これについても支払われていない。

(5)このような従業員の恒常的なサービス残業によって、武富士の業務は成り立っているのである。


2、所定労働時間、時間外手当等の定め

(1)所定労働時間の定め

 武富士の就業規則(甲第3号証)によれば、武富士における所定労働時間は、1日8時間(始業午前9時、終業午後6時、休憩時間正午から午後1時までの1時間)である。

 また、所定休日は、土曜、日曜、祝祭日、12月31日から1月3日まで、である(ただし、第5土曜日及び12月の最終土曜日を除く)。

(2)時間外手当の定め

 武富士の給与規程(甲第4号証)によれば、時間外労働については、各月の基準内賃金から家族手当を控除した金額を年間所定労働時間の月平均所定労働時間で除した金額に、下記割増率を乗じた割合による割増賃金が支払われることになっている(29条〜30条)

 第29条 時間外勤務手当は、業務の都合により所定労働時間を超えて勤務したときに、その実働1時間につき次により算出した額を支給する。(基準内賃金−家族手当)÷第10条第2項でいう時間×1.25

 第30条 休日勤務手当は、業務の都合により休日に勤務したときに、その実働1時間につき次により算出した額を支給する。(基準内賃金−家族手当)÷第10条第2項でいう時間×1.35

(3)支払日の定め

 武富士における賃金は、当月20日締めの当月28日払いであり、前記の時間外手当も同様の扱いとされている。


3、Mさんの時間外労働及び休日労働

 Mさんの2003(平成15)年1月21日から、同年5月20日までの労働時間、時間外労働時間、休日労働時間は、別紙「@残業時間計算表」の「始業時間」「終業時間」「全拘束時間」「普通残業時間」「休日労働時間」の各欄記載のとおりであり、この間の各月の残業時間及び休日労働時間数は別紙「B残業時間集計表」のとおりである。


4、Mさんが支払いを受けるべき時間外手当

(1)残業代の基礎となる時間単価(時間賃金)

 武富士の基準内賃金は、本給、役職手当、職務手当、住宅手当、地域手当、家族手当、調整手当からなる(甲第4号証・給与規程3条)。

 よって、Mさんの残業単価は、別紙「A時間単価計算表」記載のとおりである。

 したがって、Mさんが各月に支給を受けるべき時間外手当(休日勤務手当を含む)は、別紙「C残業賃金集計表」の「総計」欄記載のとおりとなる。

(2)2003(平成15)年1月21日から同年5月20日までの時間外手当額(普通残業賃金及び休日労働賃金)

 以上より、上記期間内に発生した時間外手当の合計額は別紙「残業賃金計算表」記載のとおり192万8653円である。

(3)2001(平成13)年12月21日から2003(平成15)年1月20日までの時間外手当額(普通残業賃金及び休日労働賃金)

 上記13か月間のMさんの労働実態は、その時間数において上記(2)の期間(2003(平成15)年1月21日〜同年5月20日まで)の労働時間を目安とできる。

 そこで、上記13か月間の時間外手当額は、少なくとも626万8122円(≒192万8653円÷4×13)を下らない。

 なお、上記13か月間の労働時間、時間外労働時間、休日労働時間及び各月の残業単価の具体的詳細については、訴訟係属後に武富士に対し、この期間の給与明細書及び出勤簿の提出を求め、この資料を得た後に主張をする予定がある(その内容いかんにより請求の減額・拡張も検討する予定である)。

(4)以上より、2002(平成14)年12月21日から2003(平成15)年5月20日までの時間外手当額(普通残業賃金及び休日労働賃金)は、819万6755円(上記イとウの合計額)を下らない。


5、しかるに、武富士は、Mさんに対して、この時間外手当を支払わない。

 なお、武富士は、Mさんの在職中である平成15年3月、Mさんの給与の振込先とされていた銀行口座に金29万4285円を振り込むとともに、Mさんのもとへ「未払残業見合分」と記載された給与明細書(甲第5号証・給与明細書)を送付してきた。かかる金員の支払いについて、武富士からMさんに対しどの期間に対する残業代の支払いであるか等の説明もなく、Mさんとしてはその趣旨が不明である。


6、付加金請求

 Mさんの未払いとしている時間外手当は、労基法37条により、使用者にそれぞれ、25パーセント以上、35パーセント以上の割増賃金の支払いが義務付けられている労働時間についてのものである。

 よって、前記未払いとなっている時間外手当は労基法37条違反であり、これについては労基法114条に基づき、同額の付加金を請求する。


7、未払賃金請求のまとめ

 Mさんは、武富士に対し、@賃金支払い請求権に基づき、819万6755円及びこれに対する退職日の翌日である2003(平成15)年5月24日から支払済まで、賃金等確保に関する法律第6条に基づき、年14.6パーセントの割合による遅延損害金、A並びに労基法114条に基づき、819万6755円の付加金及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を各求める。




 Mさんは、健康状態が悪かったことから、退職する前にも退職したいとの意向を上司に話したことがあり、退職することとなっていたのに、上司から、Mさんがやめると、自分が叱られると言って、やめないように懇請されたことから、一旦、退職を断念したが、さらに、健康状態が悪化し、診断書を出して、ようやく退職が認められたと、話していた。

 Mさんは、朝早くから夜遅くまで懸命に働いたことから、子供との時間や、夫との時間、家族の団欒を奪われたことにより、取り返すことができない家族のきずなが破壊されたと話していた。

 憲法に定められた「健康で文化的な最低限度の生活」は、どこに行ったのだろうか。

 Mさんの訴えが、全面的に認められるよう支援したい。