武富士による「週刊金曜日不当提訴事件」に勝訴判決!



 武富士が、週刊金曜日の記事に対して、「武富士の名誉」を毀損するとして、週刊金曜日と記事を執筆した三宅勝久フリーライターを提訴した訴訟に対して、東京地方裁判所は、平成16年9月16日、週刊金曜日の記事が真実である、あるいは、真実であると信じるについて相当な理由があるとして、武富士の請求を認めないとの判決をした。

 武富士が週刊金曜日の記事に対して提訴したのは、次の3つの記事である。

 ・武富士残酷物語(449号)

 ・武富士社員残酷物語(450号)

 ・武富士『第三者請求』裁判(458号)

 武富士が請求した金額は、総額で1億1000万円である。

 週刊金曜日に掲載された記事の内容が、武富士の名誉を毀損するものであることは、争いがなかった。そのため、記事の内容が真実であるか、真実である信じるについて相当な理由があるかが、裁判所の審理の中心となった。

 武富士が名誉を毀損すると主張した箇所は、14箇所である。


それぞれの箇所に関する武富士の主張と判決の認定事実

一、武富士残酷物語の記事について武富士が記事の内容が事実ではなく名誉を毀損するとした部分

T、聴覚障害者からSOS記事について

武富士の言い分
 「武富士の社員が支払義務のない、しかも、障害のある人に、無理矢理に、金銭の支払いをさせたものとするもので、違法かつ悪質な取り立てをしているとの印象を与える。

判決の結論
 三宅勝久氏の取材内容は、「武富士社員が、支払義務がなく、しかも、聴覚障害者であるKさんに、無理矢理金銭の支払をさせたことが真実であることを窺わせるものとなっている。
 取材対象についても、三宅は、以前から多重債務者の問題に興味をもって取材しており、弁護士や司法書士、多重債務者から武富士について情報を得ていたところ、この記事の執筆に当たっても、Kと日常的に関係のある手話通訳者や、Kの相談に乗り、武富士ともKの件で応対した弁護士に直接取材しているほか、武富士に対してもKの件で積極的に取材を行っている。

U、小学生を待ち伏せ記事について

武富士の言い分
 武富士の社員が取り立てのために、債務者の小学生の子供を待ち伏せして、脅して、債務者である母親の居所を聞き出したりするなどの非人間的な悪質な取立行為をしているとの印象を与える。

判決の結論
 三宅は、Mに3回直接取材しており、Mの子供にも取材している。その取材内容を見ても、記事の内容は、Mの方から話したもので、特に不自然なところはなく、また、Mの子供に対する取材の際にも特に不適切な質問をしたような事情は窺われず、M及びMの子供からの聴取内容は信用性が高いと判断して差し支えない。
 従って、三宅は、本記事の執筆に当たって、可能な範囲で武富士を含む関係者に十分な取材をし、その取材内容を検討したものと認められ、週刊金曜日もそれを踏まえて掲載しており、仮に、その記載内容が真実でなかったとしても、真実であると信じたことについて、相当な理由があると認められる。



二、武富士社員残酷物語の記事について、武富士が記事の内容が事実ではなく名誉を毀損するとした部分と判決の結論

T、武富士の幹部が成績の悪い支店の支店長に対して見せしめのために殴る蹴るの暴行をするなどのことをするかのような印象を与える。

記事の内容
 武富士のある支店において、店内に入ってきた上司から、支店長以外は店外に出され、支店長が他の支店で起きたトラブルに関して怒号や暴力を受けたという事実が摘示されている。

判決の結論
 真実であった可能性が高い。同支店の支店長代理として勤務していたOは、同支店に、平成13年3月19日午後6時30分ころ、地区部長が同支店に来店し(臨店)、閉店後、同地区部長から支店長以外全員が外に出るように言われたことがあり、3〜4分後に戻ったときには、支店長が同地区部長から指導を受けてしょげていたと供述するものの、同支店のガラス越しでも外からは内部の様子や音などは分からず、暴力を振るわれたとは全く思わなかったと供述する。しかし、Oは、同人が武富士に勤務してから約10年間に、月2回位の頻度で行われた上司の「臨店」の際に社員か支店外に出されたことはそれまでは一度もなかったというのであるから、社員が支店外に出されるということは、異常な出来事であったにもかかわらず、S地区部長が武富士のF支店に来店してからの同地区部長の言動については覚えていない旨の供述を繰り返しており、その供述の信用性には疑問がある。
 最も、Yの前記供述等について反対尋問を経ておらず、また、不透明で一定程度厚さのあるガラス壁越しであることから、武富士F支店内で支店長が暴力を振るわれたことや罵声を浴びせられたことが、真実とまでは断定できない。

U、武富士では、社員に回収のノルマを課した上、それを守ることを強制し、このため、社員は無理な取立行為に走っているとの印象を与える。

記事の内容
 武富士ではノルマが厳しく、厳しい取立てをしていること、武富士では、ノルマが達成できないことを「悲報」といい、ノルマが達成できなければ激しい叱責を受けること、この激しい叱責を「ツメる」又は「バキる」ということ、成績の悪い支店長を集め、数人がかりで何時間も罵倒する「未達会議」なるものがあることが摘示されている。

V、武富士の社員は脅迫するなどの違法行為を用いて回収を行っているとの印象を与える。

記事の内容
 どうしても、回収したければ、脅しに近い言葉を使ったり、支払義務のない親から取り立てることがある。

W、武富士は、社員に対して、債務者の破産などで回収ができなかった場合には、社員にそれをノルマとして上乗せするなどの不当な行為をしているとの印象を与える。

記事の内容
 利息の過払いが発覚した場合にはその分がノルマに上乗せされる。

X、武富士は、借金を完済している者に対しても取り立てを行い、このために強盗まで働いた債務者もいるとの印象を与える。

記事の内容
 完済していると知っていながら、さらに取り立てることがあること
 多重債務者に強く支払を催促したところ、その債務者が強盗で逮捕されたこと

Y、債務者が死亡すると、生命保険金が入るので、武富士の社員は、債務者の死亡を期待するという、非人間的な状況にあるとの印象を与える。

記事の内容
 サラ金は債権に団体信用保険を掛けていることから、債務者が死亡すれば、債権を回収でのること、武富士では債務者の死亡が喜ばれること。

Z、武富士は、目をつけられた社員は、難癖をつけられ暴力をふるわれてまで無理矢理に解雇されるという状況にあるとの印象を与える。

記事の内容
 Xがボーナスが支払われたことから、お礼の手紙(ボーナスがでたときに会長ら上司宛に出す礼状)を茶封筒にいれて出したところ、1か月後、支社幹部から呼び出され、お礼の手紙に茶封筒を使用したことを追及して会議室に監禁し、退職を強く迫り、机を蹴ったり灰皿をXに向かって投げたこと、このようなことが2時間も続き、尿意を我慢できなくなったXが退職を申し出たこと、その後、その支社幹部が取締役になったこと。

[、武富士では、社員に無理な回収ノルマを課した上、無理な取立行為をした場合には、その債権について社員に債務保証をさせるということまでしているとの印象を与える。

記事の内容
 武富士では厳しいノルマを課し、社内規則違反があると、社員に債務保証をさせていること

\、武富士では、会社ぐるみで計算書の改ざんを行って不正行為を隠蔽しているとの印象を与える。

記事の内容
 武富士では、調停ネゴシエーター(交渉役)の社員を中心に、会社ぐるみで計算書の改ざんが行われいること


A:判決が認定したU・V・W・X・Y・Z・\の記述について

 武富士の元社員であったLが、「ノルマが厳しく、債務者に頻繁に催促の電話や自宅訪問をし、債務者の親族などの債務者以外の第三者にも支払を請求することがあること、ノルマの達成状況が悪い場合には、「ゲキ」「バキ」と言われる本部からの激しい口調で何度も社員を叱責・罵倒するような電話が毎日少なくとも1時間おきにあるほか、成績の悪い支店長は一堂に集められ、長時間にわたって上長からしっせきされるという未達会議があること、債務者以外の第三者から支払を受けた場合には、必ず「義務なし承知」と自発的に返済を申し出たように機械入力すること、債務者以外の第三者に対する請求や過剰貸付が明らかになると、それらを行った社員が始末書を書かされるなどし、過剰貸付の場合には、過剰分のみならず、全額の債務保証をさせられること、武富士では、債権に保険を掛けており、債務者が、死亡して保険が下りた時点で当該債務者に対する債権は回収扱いとなることなどを供述し、書籍にも執筆しているが、これらの内容は、非常に具体的であり、不自然なところもなく、Yの陳述を録取した陳述録取書とも矛盾せず、信用性が高いものと認められる。
 そして、Lが勤務していた武富士支店内のパソコン画面を撮影したものをまとめた資料集「武富士支店内での指示画面とその解説」と題する文書によれば、武富士においては、ノルマを達成させるために頻繁に本部から指示があり、債務者以外の第三者に対する取立てを窺わせる「尊属調査」の指示もあることが認められ、また、武富士の元社員が本部からノルマに関して激しい叱責・罵倒を受けている様子を録音したテープや武富士の支社から罵声が聞こえてくる状況を撮影したビデオテープからも、武富士でのノルマが厳しく、本部からノルマに関して叱責・罵倒されることが認められ、これらのLの供述やY K陳述を録取した陳述録取書の内容を裏付けるものである従って、U・V・W・X・Y・Z・\記述で摘示された事実の主要な部分(武富士の元謝意が多重債務者に強く支払を催促したところ、その債務者が強盗で逮捕されたことは、付随的な記載であって主要な部分とはいえない)は、いずれも真実であると認められる。


B:判決が認定した[の記述について

 Yから支社長に宛てたYが茶封筒を使用して支社長に手紙を出したことや謝罪する内容の手紙、同月11日つけの退職届け、利尿剤(漢方薬)が処方されたことを示す説明文書、離職証明書が証拠として提出されている。これらからは、Yが茶封筒を使用して手紙を支社長に送ったことについて、上司等から指摘があったことが窺われ、謝罪の手紙を書いた直後に退職したことも認められるが、それ以上に、Yが、お礼の手紙を茶封筒で出したことから難癖を付けられ、長時間の監禁の上、暴力まで振るわれて退職に追い込まれたことまで裏付けるものとは言い難い。
 従って、Yが反対尋問を経ていない本件では、[記述の摘示事実の主要な部分(お礼の手紙を茶封筒で出したことから難癖を付けられ、長時間の監禁の上、暴力まで振るわれて退職に追い込まれた武富士の社員がいること)が、真実であったとまで認定することはできない。


C:判決が認定したIの記述について

 本件記事に出てくる多重債務者Aさんが、武富士を相手方として高松簡易裁判所に申し立てた特定調停において武富士が提出した計算書には2か所15,000円の入金履歴が欠落していた部分があったことが認められる。
 また、武富士が明細書兼計算書に存在しない貸付を記載したり、異なる返済額を記載したりしていた事例が報告されている。しかし、本件I記述は、武富士では、会社ぐるみで計算書の改ざんが行われていることが主要な部分となっており、前記認定事実その他の証拠からは、武富士が会社ぐるみで改ざんを行っていることが真実であるとまでは認められない。


D:前記B記述の相当性についての裁判所の判断

 三宅は、他の複数の武富士の元社員から、武富士では、「臨店」と称する抜き打ち検査では罵声が浴びせられたり暴力が振るわれることがあることを聞いたことが認められる。さらに、三宅は、武富士に対して、(1)ノルマや暴力・恫喝などの有無(2)計算書改ざん疑惑についての質問書をFAXしたが、武富士からは回答がなかった。
 したがって、三宅は、Z記述の執筆に当たって、Yや武富士の元社員、武富士などに対して十分な取材をしたものと認められ、週刊金曜日もそれを踏まえて本件記事を掲載しており、真実であると信じたことについて相当な理由があると認められる。


E:前記Cの 記述の相当性についての裁判所の判断

 三宅は、計算書の改ざん聞多ョについて札幌のA弁護士に会い、計算書をめぐる状況について取材し、同弁護士が改ざんが疑われる武富士の計算書を見たことがあり、武富士に説明を求めたことがあることも聞いたほか、多重債務者問題に関わる弁護士や司法書士から計算書の改ざん疑惑について耳にしたことがあった。
 三宅は、武富士にFAXで質問したが、武富士からは回答がなかった。
 三宅は、十分な取材をしたものと認められ、週刊金曜日もそれを踏まえて記事を掲載しており、真実であると信じたことについて、相当な理由があると認められる。



武富士『第三者請求』裁判の記事について、武富士が記事の内容が事実ではなく名誉を毀損するとした部分

A:武富士が名誉を毀損すると指摘した記事の内容と武富士の主張

T、武富士は、支払義務のない母親から取立行為を行っているとの印象を与える。

記事の内容
 S子さんが、息子が払えなくなった武富士に対する債務について、親に支払義務がないことを知らずに、武富士からの催促に応じて支払ったこと。

判決の内容
 S子さんが、支払義務がないことを知らずに、同人の息子の武富士からの債務を弁済したことが認められ、本件記述で摘示された事実が真実であると認められる。

U、武富士では、交渉履歴を改ざんし、それを裁判の有利な証拠として使っているとの印象を与える。

記事の内容
 S子さんの武富士に対する訴訟において、武富士から「交渉履歴明細」が提出され、そこには「自宅母・相談『来てほしい(支払い相談)』義務なし承知」との記載があること、交渉履歴をめぐっては、「承知」と書かれた部分を「義務なし承知」に改ざんしたなどと複数の武富士の元社員が証言している。

判決の認定
 三宅に対して、前記Yが、武富士社内で交渉履歴に改ざんが加えられたことがあることを話したことがあり、また、Lも、債務者以外の第三者から支払を受けた場合には必ず「義務なし承知」と自発的に返済を申し出たように機械入力すると供述しており、その供述内容が真実であると認められる。

V、武富士では、社員に回収ノルマを課した上、それを達成できないと激しい追及がされ、このため、社員は、第三者からの取り立てという違法行為に走るようになるし、また、内部文書からして、武富士はそのような第三者からの回収を容認しているとの印象を与える。

記事の内容
 武富士では、ノルマが達成できないと、支店長が長時間にわたって武富士幹部から誹謗・中傷され、暴行や土下座をさける「未達会議」に招集されること、支払義務のない第三者に支払ってもらう際に支払義務がないとはいえないこと、武富士内部では、回収困難な債権の処理に関し「特別和解条件について」と題する和解をする際の条件が記載された文書など、第三者からの取立てについて触れた文書が存在することが摘示され、さらに、支払義務のない第三者からの取立てが武富士社内で認知されていることが摘示されている。

判決の認定
 武富士において、ノルマが達成できないと、支店長が長時間にわたって武富士幹部から誹謗・中傷等がされる未達会議に招集されることが真実であることは、前記のとおりである。
 そして、武富士においては、「特別和解条件について」と題する文書が存在することは真実であり、債務者の親族などの債務者以外の第三者にも支払いを請求することがあることは真実である。

 従って、本件T〜V記事鉄で摘示された事実の主要部分はいずれも真実であると認められる。




感想

 武富士は、武富士にとって不名誉と思われる報道がなされると、決めて高額の訴訟を提起する。

 5,500万円の訴訟において、印紙代は、237,600円である。

 三宅勝久さんは、訴状を受け取り、請求されている金額が、5,500万円という巨額なものであることに驚き、さらに、印紙代が237,600円と書かれていることをみて、また、驚いたという。

 23万円という報酬を得るためには、どれほどの取材をし、どれほどの時間を費やして記事を作成せねばならないかに思いをはせたからである。

 さらに、武富士から訴訟を起こされ、請求額は、合計で1億1000万円となった。

 訴訟を提起されると、弁護士に依頼して、弁護士に着手金を支払わなければならない。

 さらに、武富士からの主張に対して、自分が行った取材がどのようであったか、真実であるということについて、大変な時間と労力を得て、反論しなければならない。

 その中でも、最も、苦痛なことは、取材に協力してもらった人(本件の場合は、武富士関係者や被害者)に対して、再度、時間を割いてもらって取材に応じてもらわなければならないことだ。 内部告発的な調査報道の場合、取材に協力してもらうためには、その人達に、さらなる「迷惑」がかからないようにするのが、最も、重要な「約束」である。もともと、楽しいことではない、苦痛な思い出や、もしかしたら、自分にも不利益がかかるかもわからないということである。

 マスコミ人にとって、「取材言の秘匿」は、最も重要なことである。

 今回の武富士関係の事件では、武富士の元社員や被害者が、再度の事情聴取に協力してくださったということが、このような判決が得られた最大の要因だと思う。

 当たり前のことが、当たり前であると裁判で認められるために、必要となる時間と労力は、取り返しがつかないものである。

 武富士が、潔く非を認めて、控訴しないよう念じてやまない。