東京新聞「元常務が語る武富士の今」

東京新聞平成17年3月27日付けで、次のような武富士に関する記事が掲載されている。

元常務は、現在、地位保全の仮処分の申立てをしているという。

刑事事件においても、貸金業規制法関係においても、一線から退いて、武富士の経営にはタッチしないというふうに言われていたが、この記事の内容からすると、事実が違うようだ。

元常務が語る武富士の今

 「実業から身を引いた。今後は社会貢献活動をしていきたい」。盗聴事件で有罪判決を受けた昨年十一月、消費者金融大手「武富士」の武井保雄前会長はこうコメントした。だがその約一カ月前、武井氏は自らの一族が持つ武富士株の売却などをめぐり、「経営者」として力を維持していたという。千六百億円という史上最高の贈与税申告漏れも発覚した武井“王国”の実態を、同社元常務が語った。


「誰が経営者だ。おれが経営者だ」

 昨年九月、武井氏は事実上の自宅として使う東京都杉並区の武富士社員研修施設「真正館」でこう語った。相手は同社元常務の中原大作氏だった。数カ月前から、武井氏からたびたび呼び出され、共通の趣味である競馬をする仲だった。

 武井氏が武富士の創業者とはいえ、会長職を退いた今、経営や人事に関する法的権限はない。中原氏は武井氏の後押しには意味がないのではないかと考えた。当時経営していた金融会社にも未練があり、打診された復職に難色を示した。そのとき返ってきたのが、冒頭の言葉だったという。

 武井氏は「おれが大丈夫だと言えば大丈夫だ」と言い、「役職は部長、年収で千二百万円、月々八十万円、残りは賞与で」とも約束した。これを信じて中原氏は同十月から同社営業統轄本部業務部長職として復職した。


経営権に固執 株売却は難航

 かつての側近にしつこく復職を迫ったのはなぜか。当時、武井氏は非常に追いつめられていた。武井氏は一昨年十二月、武富士に敵対的なジャーナリスト二人に対する盗聴を行ったとして、電気通信事業法違反容疑で逮捕、起訴された。

 貸金業規制法には、貸金業者の役員や25%以上の株式を持つ実質支配者が、禁固以上の有罪判決を受けた場合、貸金業登録を抹消するとの条文がある。

 武井氏は逮捕直後に会長職を辞任したが、事実上同氏が支配する、武井一族とファミリー企業の株は約60%で、この条文に抵触するとみられた。登録抹消は貸金業者にとって死活問題。武井氏は少なくとも33%以上を早急に売却し、25%未満にする必要があった。

 外資系投資会社などが、昨春から活発に武井氏に接近、株売却を持ち掛けていた。だが、売却すれば、経営への影響力は大幅に低下するため、同氏は「早く売らなければならないが、売りたくない」というジレンマに陥っていた。中原氏が武井氏から頼まれたのは、この株売却問題。判決言い渡しが一カ月後に迫った昨年十月中旬には、株売却先の候補は米系投資会社のニューブリッジ・キャピタルに絞り込まれていた。

 同月十七日、真正館をニューブリッジの幹部らが訪れ、武井氏や売却交渉を取り仕切っていた川島亮太郎常務らと交渉した。これに参加したとされるニューブリッジの幹部は「何も言えない。会議に参加した別の方から確認を取ってほしい」と話す。交渉では、ニューブリッジ側が経営権の完全取得を狙い、武井一族の持つ約60%の株のうち、51%の売却を求めたが、経営権に固執する武井氏は同意せず、決裂した。

 だがその直後、武井氏はあらかじめ決めていたかのように、▽25%は武井一族で継続保有▽12%は議決権のない株として信託会社に譲り受けを委託▽20%は市場で売却し、関連会社の負債約二千百億円の返済にあてる−との方針を出し、「明日午前中に社長に取締役会を開かせろ」と中原氏らに指示した。

 すべての役職を退いた武井氏に、取締役会招集を指示する権限があるはずがない。だが、翌十八日、臨時取締役会は開かれた。

 しかも、その取締役会は「武井氏一族の持ち株を外資に売却しないでいただきたいということを取締役会全員一致で決議した」という決議文を決議するために開かれたものだった。この決議文は、武井氏が「文章がよくない」として、その後、決議し直されたという。

 中原氏はその後、自身がかかわる金融会社が無許可で債権回収業を営んでいたことを理由に、昨年十一月中旬に突如、武富士から解雇を通告された。現在、同社を相手取り、業務部長の地位保全の仮処分を東京地裁に申し立てている。


“忠言”の結果『不当に解雇』

 「無許可でも問題ないと当局にも確認してあったし、金融会社のことは武井氏にも説明した。まったくの不当解雇だ」と憤る中原氏は「別の解雇理由があったのではないか」とみる。武井氏の二男で、代表権を持つ同社専務・営業統轄本部長の健晃氏の問題だ。

 健晃氏は率先して、電話で部下にノルマ達成を厳しく迫る手法を繰り返していたという。罵声(ばせい)による檄(げき)だから「バキ」。そう呼ばれ社員から恐れられていた。同本部の部下も、健晃氏と同様のバキを展開していた。

 だが、「武井氏はこうした強引な手法が貸し倒れの増加や顧客からのクレームを招き、業績悪化につながるとの懸念を抱いていた」(中原氏)。

 一時は健晃氏の上司でもあった中原氏は復職時、これをやめさせるよう武井氏から「特命」を受けていた。しかし、実際に同本部に配属されると「健晃氏がトイレに行くときに部下全員が起立して、いってらっしゃいませと唱和するような状態」(中原氏)で、注意は困難な状況だった。

 意を決して周りの社員にバキをやめるよう注意し、健晃氏にも忠告したが、それから間もなく、解雇の通告を受けた。武井氏からは「親子の仲を裂く気か」と、特命とはまったく矛盾する叱責(しっせき)を受けたという。

 中原氏「解雇」後も、ごたごたは続いている。川島常務は今年一月、突然退任した。元久存社長も就任一年を待たずに今月、突然退任。元久氏は「今は勘弁してほしい」と言葉少なだった。後任社長には武井氏の長年の側近・近藤光専務が昇格している。

 さらに武井氏の長男・俊樹氏が東京国税局の税務調査を受け、両親から贈与されたオランダ法人株をめぐり、個人としては史上最高額となる千六百億円の申告漏れを指摘されていたことが今月、明らかになった。

 本業でも不祥事が発覚した。昨年十二月には、錦糸町支店(東京都墨田区)が、債務者親族への取り立て業務にからみ、業務停止処分を受けた。一昨年八月の武富士守口支店(大阪府)に続くもので、消費者金融大手では前例がない。「武富士だけが特異。同列視してほしくない」と語る業界関係者もいる。

 武富士広報部は「(株売却問題などをめぐる質問について)中原氏とは現在係争中であり、コメントできない。川島常務は健康上の理由で、元久社長は一身上の都合で、退職した」と説明する。


『金融当局は実態調査を』

 だが、盗聴事件の被害者で、武富士問題を追及しているジャーナリスト山岡俊介氏はこう指摘する。

 「株保有割合での貸金業規制法の実質支配基準は確かにクリアしたが、これほどむちゃくちゃな武井支配の実態があるなら、規制法の趣旨からして問題があるのではないか。金融当局は十分に武富士社内の実態を調べるべきだ」