裁判官の無理解は、消費者の敵
  札幌地方裁判所所長への申入れ

 私は、北海道最北端の釧路で弁護士をしている。釧路の住民も、テレホンキャッシングによって東京・札幌の貸金業者から勧誘を受けて高利の金を借り、毎月送金料を負担して高利の支払いを続け、最後には、多重債務者となる。

 それらの貸金業者は、「合意管轄」を理由として遠隔地の裁判所に「貸金請求事件」を提起する。内容に争いがなく、分割で返済していく場合、利息制限法1条1項に基づく元本充当計算を行なった上で算出された残元金を、どのようにして支払うかということで、分割支払いの合意をする。例えば、元本充当計算後の残元金が、13万円となった場合には、5000円ずつを26回支払うとか、1万円を13回支払うなどである。この場合に、最も、問題となるのは、返済不能となった時点から支払い開始までの間の利息・遅延損害金と、支払い開始後の将来利息をどうするかである。

 私は、多重債務のために返済不能となった時点で、いわゆる破産状態となったと考え、返済不能時以降の利息・遅延損害金は一切免除してもらい、かつ、支払い開始後の将来利息もすべて免除してもらうという条件で和解をする。この方法は、多くの裁判所の調停でも行なわれいると聞く。このようにして、支払いをするようになった後、3回分延滞した場合には、遅延損害金を付するという約束となる。

 遠隔地で訴訟が提起された場合には、そこに行くための費用もかかるため、出頭せずに、書面でこのような和解を求めることとなる。

 ところで、この度、釧路在住の被告に対して札幌簡易裁判所に訴訟が提起されたため、前述のような内容の分割払を求めたところ、札幌簡易裁判所の裁判官は、債務者が同意しないとの理由で、直ちに判決をした。判決となれば、すぐにも、強制執行がされることとなる。勿論、この債権者も判決(1月11日)のに、直ちに給与に対する差押えの申立てをしたという。

 私は、裁判官のあまりの多重債務者に対する無理解に怒り心頭に達して、札幌地方裁判所の所長に後記のような上申書を提出した。


札幌地方裁判所所長殿

 私は、釧路市で弁護士をしております。いわゆる、多重債務者の債務整理事件を多数受任しております。私は、できるだけ、長くかかっても分割で返済する方法での解決が最良と考えて、いわゆる「任意整理」による解決を目指しております。

 ところで、貸金業者(特に、いわゆるテレホンキャッシングと呼ばれる業者)は、電話一本で貸金を行なうという業務形態をとっておりますが、合意管轄を理由にして、債務者にとっては到底出頭が不可能な遠隔地に訴訟を提起いたします。

 私は、そのような場合、契約関係に問題がない場合には、基本的に「移送の申立て」は行なわず、分割返済を求める意思表示を行い、民事調停法第17条による決定を求めております。

 私は、多額の債務のために返済不能となった人が、自己破産をすることなく任意整理を行なう場合には、「返済不能時の残元金(利息制限法1条1項に基づく元本充当計算を行なった上で算出されたもの)を返済可能な金額で分割して返済する。その間、将来利息はつけない、勿論、返済不能時から返済開始までの間の遅延損害金もつけない」とするよう求めております。

 仮に、その分割返済案に同意していただけない債権者がある場合には、移送の申立てを行い、移送決定を受けた上で、貸付に際して貸金業規制法に定める条項を遵守した貸付が行なわれているか否か、融資事態が過剰融資である場合には、その旨を、当初の融資事態には特別問題がない場合にも、その後の増額等が過剰融資となるか否か、を主張し、債権者が、債務者に対して、「利息・遅延損害金」の請求をすることは信義則上認められない旨の主張を行い、裁判所・裁判官のご判断を仰ぐことといたしております。

 ところで、札幌簡易裁判所において、多重債務者の置かれている状態について全く顧慮されることなく、分割調停の申立てをしている場合に、契約関係は争いがないとして、債権者の主張を全面的に認める判決を即座にされる裁判官がおられます。判決を得た貸金業者は、直ちに、給料の差押えの申立てをいたします。給料の差押えをされる場合には、職場を失い危険性も極めて大きいものです。(大多数の裁判官は、このような措置はとられません。債権者と分割の条件があわない場合には、その旨連絡していただき、さらに、条件を併せるなどの措置をとって下さっております。)

 私は、札幌簡易裁判所・札幌地方裁判所の裁判官が、遠隔地の被告に関する訴訟を行なわれる場合に、これらのことを十分に配慮された訴訟指揮をされるよう強く要請いたします。

 勿論、個々の訴訟は、裁判官が独立して行なわれるもであり、第三者がとやかくいうことができるものではないことは十分に承知しております。

 しかしながら、裁判官の無理解が、消費者の一生を左右することがあることを十分にご理解いただきたく、このような申し入れを行ないます。

 尚、今回の事件は札幌簡易裁判所平成11年ハ第6160号で、担当裁判官は、○○○○裁判官です。

平成12年1月27日
釧路弁護士会所属
弁護士  今   瞭 美