要介護認定に対する疑問に答える


問1)なぜ要介護度を判定するのに「要介護認定等基準時間」が用いられているのでしょうか。


答)要介護度は「介護の手間」を反映したものです。しかし、漠然とした「介護の手間」というだけでは、実際の審査判定の際にどのような基準によって判定するのが適切であるかがわかりません。そこで、当初は「食餌摂取」「排泄」「痴呆」など、いくつかの簡単な「心身の状況」の組み合わせを用いて要介護度の程度を表現できないかを試みてみました。ところが、高齢者が持っている「心身の状況」の組み合わせや程度はあまりにも多様であり、簡単な状況の組み合わせでは要介護度に十分反映させられないことがわかりました。そこで、いきなり「心身の状況」の組み合わせなどによって要介護度を表現するのではなく、一度、「心身の状況」を要介護度と相関する何か共通の「ものさし」に変換し、その上で、「ものさし』に応じた要介護度を設定すべきであるという判断に至ったのです。
次に、要介護度と相関する共通の「ものさし」を定義する際に考えなければならないことは、要介護度に応じた区分支給限度額や介護報酬が設定されるという点です、そのため、要介護認定の結果は介護サービスの量と関係している必要があります。そこで、「介護の手間」を具体的に表現する「ものさし」としてサービスが提供されている時間として定義される「要介護認定等基準時間」を用いることが考えられたのです。



問2)要介護認定基準時間が実際の介護サービスに要している時間と一致しないと聞いていますが、その理由がわかりません。

答)要介護認定等基準時間は、直接生活介助をはじめとする5分野に分類されて推計されます。
それぞれの分野ごとに、その分野に含まれる具体的な介護サービスが定義されていて、要介護認定等基準時間の推計根拠になっている「1分間タイムスタディ」では、その定義に従って、看護・介護職員が提供した介護サービスの内容が記録されているのです、「1分間タイムスタディ」は特別養護老人ホーム・老人保健施設・介護力強化病院で提供されている介護サービスに関する記録ですから、要介護認定等基準時間は、いわば要介護認定の対象となる高齢者がそれらの施設に入所・入院していると仮定した場合に提供される介護サービスの時間といってよいのですが、直接生活介助など5分野に含まれる介護サービスのみが含まれることになりますので、例えば、職員の研修やカンファレンスなど、特定の高齢者に提供されていると同定できない時間は除外される点に注意する必要があります。
このように、全ての対象者を施設入所と見なして計算される時間ですから、実際には在宅で介護を受けている高齢者については、施設とは環境が違うこと等によって、実際に受けている時間とは異なって感じることもあると思います。例えば、在宅で24時間の介護を受けている高齢者がなぜ一日数十分間の介護時間と見なされるのかがわからないという声です。これは、要介護認定等基準時間が、介護を行っている人が特定の高齢者の介護に専念している時間だけを積算したものであることに主な理由があります。例えば、高齢者の様子を気にかけながらその傍らで介護を必要とする高齢者に対する介護サービスとは特定できないような一般的な家事をしている時間は要介護認定等基準時間算定の対象となっていないのです。
また、要介護認定等基準時間が介護保険によって受けられるサービスの時間とは異なるとされています。つまり、要支援状態の高齢者が4時間の通所介護(デイサービス)を週に2回利用した場合、介護の時間は480分/7日(約70分/日)になると思われるのに、要介護認定等基準時間ではせいぜい30分/日にしか過ぎないではないかという疑問です。確かに、通所介護の時間中は常に一対一で介護職員から直接的な介護を受けていれば要介護認定等基準時間は約70分/日になるはずですが、実際には通所介護での介護職員の配置は通所介護の人員基準に基づけば利用者5人に対して1名ですから、1人の利用者が受けている平均時間は最大でも約14分/日となるのです。このように、要介護認定等基準時間は決して架空の時間ではありませんが、利用者が感じる時間の長さとは異なる場合があると言うことです。


問3)二次判定は「状態像の例」だけを見ながら行うことになるのでしょうか。要介護度は「要介護認定等基準時間』に基づいているとされるのに時間の概念を考慮しなくてもいいのですか。


答)要介護認定の基準は、要介護認定等基準時問に基づくものではありますが、それだけではなかなか人間の感性としてわかりにくいため、二次判定においては、要介護度別に示される「状態像の例」に照らして審査判定をしていただくことが原則です。従って、要介護認定基準も、例えば要介護1では「要介護認定等基準時間が30分以上50分未満である状態、又はこれに相当すると認められる状態」として定義されていることからもわかるとおり、(一定量の介護サービスの提供が見込まれる)「状態」が基本です。
「状態像の例」は、それぞれの要介護度での要介護認定等基準時間の幅のほぼ中間部分(例えば要介護1であれば40分付近)に位置し、その要介護度で代表的と考えられる状態像を例示したものです。
しかし、同じ要介護認定等基準時間を持っていても、それは85項目の調査結果から統計的に導かれる平均的な推計値ですから、個別に見れば、それより「介護の手間」が必要な方もいれば、逆に少なくてすむ人もいるかもしれません。その部分の評価の資料として活用されるのが、特記事項や主治医意見書の内容です。これらの資料によって、実際の「介護の手間」が平均的な量よりも多く必要とするかどうか等の判断をします。このように、二次判定でも「介護の手間』の概念を常に意識することが重要です。
なお、審査判定の際に、要介護度別中間評価項目の平均得点、障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)や痴呆性老人の日常生活自立度による要介護度の分布を参照することができるようになっていますが、これも要介護度別の平均的な状態像を表現するという点では「状態像の例」と同じ意味を持っていると言ってよいと考えられます。


問4)要介護認定等基準時間は5分野に分けた上で樹形モデルを用いて計算することは理解していますが、それぞれの分野ごとの樹形モデルで分岐に使用されている調査項目や選択肢はどのようにして決めたのですか。


答)要介護認定の一次判定に用いられている樹形モデルにおいて、なぜこの項目の結果によって右に枝分かれしたり左に行ったりするのかがわからない、という声を聞きます。分岐についての医療や福祉等の専門的な観点からみた意味づけを問うているのではないかと考えられます。ところが、樹形モデルの作成にあたっては、医療や福祉等の専門的な観点からではなく、統計的な処理によってその基本となる理論が構築されているのです。
その理論の構築は、以下のような作業に基づいて行われています。
(1)「1分間タイムスタディ」の対象者を要介護認定等基準時間に応じてグループ化する。
施設に入所・入院している約3,400名の高齢者を集団としてとらえ、それらの高齢者が要介護認定等基準時間からみてどのようなグルーブに分類できるかという作業です。つまり、どの項目、(又は中間評価項目)のどの選択肢(中間評価項目では点数)で右に分岐するか、又は左に分岐するかを決めたのかといえば、左右に分けられる2つのグルーブが持つ要介護認定等基準時間が統計的に最も大きく異なってくる調査項目とその選択肢をもって分岐点としているのです。このように、あくまで統計的な処理によるものであり、理論作成者が医療や福祉等の専門的な観点からどの項目によって分岐させるかを決めたわけではありません。
この分岐を繰り返していくと、まるで枝がどんどん伸びていくように樹形モデルが完成します。(専門的には、分岐していった終末点を「葉」と呼んでいます。)
樹形モデルをたどっていくと、分岐の条件(例えば、寝返りが「一部介助」など)がそれぞれの分岐に出てきますが、その分岐の条件こそが対象者が同一グルーブに属する条件となります。
(2)それぞれのグルーブが持つ要介護認定等基準時間を計算する。
同じグルーブ(上記の表現では「葉」)に属する「1分間タイムスタディ」の対象者に提供されている介護サービスの時間の平均を計算し、そのグルーブの要介護認定等基準時間とします。樹形モデルを作成する際に、分岐を繰り返し行っていくことはより細かなグルーブ化ができるという点では優れていますが、あまり分岐を繰り返すと、最後には枝が伸びきって、約3,400名の一人一人が異なる「葉」に属することも考えられます。その場合、「1分間タイムスタディ」の対象者のデータ上、たまたま例外的に長時間の介護サービスが提供されていると、要介護認定等基準時間も長くなり、結果的におかしな要介護認定等基準時間がそのグルーブにつけられることになります、従って、樹形モデルではある程度の人数をそれぞれのグループに含むようにすることによって介護サービスが提供される平均的な時間を得るようにすることが求められます。今回の樹形モデルでは、それぞれのグループには少なくとも25人分のデータが含まれるようにしています。
(3)未知の人の要介護認定等基準時間を推計する。
「同じグルーブであれば、同じ時間の介護サービスが提供される」という仮定に立って、要介護認定等基準時間がわかっていない高齢者がどのグループに属するかを調べます。調べ方は、その高齢者に関する調査結果に基づいて樹形モデルをたどって行くだけです。行き着いたグループにつけられた要介護認定等基準時間をその高齢者の要介護認定等基準時間とします。


問5)なぜ中間評価項目が利用されることになったのですか。


答)10年度の要介護認定に関する試行的事集では一次判定のために樹形モデルは使用されましたが、中間評価項目は使用されていませんでした。この試行的事業では、
・ 調査結果を一項目修正しても要介護度が変わらない。
・ 調査結果を一項目修正すると要介護度が大きく変わる。
といった指摘がありました。
樹形モデルによる推計方法は非常に精度が高い反面、これらの課題を持っていると言うことができます。
前者は、要介護認定等基準時間を推計するときに、その調査結果が樹形モデルの分岐に出てこない場面が該当します。
また、後者は、その調査結果が樹形モデルに出てくる場合であって、右に分岐するか左に分岐するかによって、要介護認定等基準時聞が大きく異なってくる場合が該当します。
これらの現象への対策としては、なるべく多くの調査結果が分岐点として使用されており技がよく伸びた樹形モデルを作ることによって解決しますが、そうなると、すでに述べたとおり、「1分間タイムスタディ」の調査結果のばらつきの影響を受けて推計結果が不安定になる恐れがあります。
そこで、認定調査によって把握された心身の状況に基づいて、機能や状態の良し悪しを総合的に評価する中間評価項目を樹形モデルの分岐として利用することが提案されました。中間評価項目の得点は、その群に含まれる複数の調査項目の結果が組み合わされたものです。いわば、中間評価項目は、数項目の認定調査結果を集約したものですから、中間評価項目が分岐に利用されれば、そこには数項目の調査結果が反映していると考えられます。また、ある高齢者の調査結果の一つが他の項目での傾向と異なる不自然なものとなっていたとしても、他の調査項目の選択傾向に相殺されて中間評価項目の得点としては反映されにくくなります。
このようにして、あまり樹形モデルによるグループを細分化することなく、多くの調査結果を加味した推計が可能になったのです。


問6)『状態像の例』が示されていますが、要介護度別に見て、それぞれに一定の特徴はあるのでしょうか。


答)『状態像の例』を見る際には、上記の中間評価項目ごとの調査結果の評価が大いに役立ちます。中間評価項目は10年度のの要介護認定に関する試行的事業で収集されたデータに基づき、同じような結果が出やすい調査項目を一つの群としたものです。(例えば、「ボタンのかけはずし」に介助が必要な人は「上衣の着脱」にも介助が必要な場合が多い。)
従って、機能や状態の低下に伴って、群ごとに介助などが必要になっていく傾向を見ることができます。
例えば、要支援状態では、第4群「特別な介護等に関連する項目」に問題が認められる調査項目は少ないですが、第5群「身の回りの世話等に関連する項目」にはある程度まとまって問題となる調査項目が見うけられます。
要介護度が上がるに従って、第3群「複雑な動作等に関連する項目」や第2群『移動等に関連する項目」にも問題となる調査項目が見られるようになるとともに、中間評価項目の得点も徐々に低下していき、機能や状態が低下していることを裏付けています。
第6群「コミュニケーション等に関連する項目」は、第7群「問題行動に関連する項目」と強い関係があり、特に第7群に問題となる調査項目が多く見られる場合には、第6群にも問題となる調査項目が多く見られることがわかります。
このように、中間評価項目ごとに状態像を見ていくと、要介護度とともにその内容が変化していく様子を理解することができます。ただし、同じ要介護度で「状態像の例」に当てはまらない状態像を持つ場合もありますので注意が必要です。


問7)樹形モデルは要介護認定等基準時間の推計を行う方法としてどのような点が優れているのですか。


答)要介護認定等基準時間を推計する理論にはいろいろな方法が考えられますが、ここでは心身の状況に関する調査項目毎に点数を付与して、調査結果に基づいて採点する「点数加算方式」との対比で考えてみましょう。
例えば4つの調査項目について、それぞれの結果が得られ、調査結果に付与された点数を合計して判定が行われます。
この方式では、それぞれの調査結果同士は関連がなく、別個に総合評価の決定に関わっています。しかし、実際には、各調査項目の結果が無関係に介護サービスの内容や量に関わるわけではありません。「全く起き上がることも立つこともできない」高齢者にとっての「尿意がある」ことと、「かろうじて立つことができる」高齢者に「尿意がある」ことは、介護サービスの内容や量に大きな違いを生じさせると考えられます。
樹形モデルでは、このような調査項目間の関係性を判定結果に反映させることができます。つまり、ある調査項目の結果によって、次の分岐を決定する項目が異なってくることによって、介護サービスの内容や量に影響を与える調査項目相互の関係を反映させることができるのです。樹形モデルは、より介護現場の感覚を反映させる方法であるといえます。


問8〉基本調査の調査項目は、状態像すべてを網羅しているようには思えないのですが、どのような理由で選択されたのですか


答)要介護度は、個々の対象者に対して必要十分な介護サービスの量を提供できるものでなくてはなりません。できれば、個々の対象者に必要十分と考えられる介護を実際に提供した時の介護サービス量を測定したいところですが、全ての要介護認定の申請者にそのような測定を行うのは不可能です。
そこで、今回の要介護認定では、概ね必要十分な介護サービスを受けていると考えられる約3400名の施設入所・入院中の方々を対象に「1分間タイムスタディ」を行い、
(1) 現在提供されている介護サービスの量
(2) 心身の状況
について調査し、この2種類のデータを関連づけた樹形モデルを作成しました。この樹形モデルを使用することにより、心身の状況を調査すれば、その結果から提供されるであろう介護サービスの内容と要する時間を推計することができるようになったのです。
樹形モデル作成のための「1分間タイムスタディ」の段階では、73項目よりも多くの心身の状況を表す私評について調査が行われました。提供される介護サービスの量に関連づける段階で、介護サービスの量に影響を与えない項目は除外されました。現在使用されている73項目はそのような処理の結果抽出された項目であると考えて下さい。


問9)コンピュータが人間の要介護度を測ることに違和感があるのですが…。


答)今まで説明してきたように、コンピュータに搭載されている一次判定用ソフトウェアは、「1分間タイムスタディ」の対象となった約3,400名の高齢者の介護の状況を統計的に処理して得た結果に基づいて作成されています。
コンピュータが示す結果は、統計的に平均的なものですから、多くの高齢者の状況からはあまりはずれた結果にならないように作られています。しかし、「平均」という言葉が示すように、それから少しはずれた人もいることは事実です。そのため、特記事項や主治医意見書が必要になるのです。つまり、この2つの資料は、認定調査の対象となっている高齢者が通常の高齢者とどれくらい異なっているかを記載していただき、二次判定の場でその違いに基づいて最終的な判定を行うために必要な資料と言うことができます。
コンピュータが要介竃認定の審査判定を支援することはあっても、コンピュータが要介護認定を支配することはありません。

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