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ピアノとヴァイオリンのためのソナタ

Sonatas for piano and violin

「ヴァイオリン・ソナタ」と呼ばれることもある。しかしモーツァルトの作品には、そのようなものはなく、正しくは「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」である。 もっと詳しく言うならば「ヴァイオリン伴奏つきのピアノ・ソナタ」である。 当時、このジャンルにおいて、ヴァイオリンはあくまで伴奏であり、ソナタの主役はピアノ(彼は終生クラヴィアと言っているが)であり、彼の時代もそのように理解していた。 したがってこれらを、ベートーヴェン以後の、ピアノとヴァイオリンが対等の立場で競い合うべき種類の曲と聴き、モーツァルトの場合にはヴァイオリンのパートが弱いと誤解してはならない。

ピアノといっても、最初はチェンバロ(クラヴサン)のことであり、のちにフォルテピアノと呼ばれるものである。 たとえば、ド・テッセ伯夫人に捧げられたものは「ヴァイオリン伴奏可能なクラヴサンのためのソナタ Sonates pour le clavecin qui peuvent se jouer avec l'accompagnement de violon」であり、 アウエルンハンマー・ソナタでは「ヴァイオリン伴奏つきのクラヴサンまたはピアノフォルテのための6つのソナタ Six sonates pour le clavecin ou pianoforte avec l'accompagnement d'un violon」という表題である。
 


作品1

フランスの王女ヴィクトワールに「作品1」として贈った2曲のソナタ
  1. K.6 ソナタ ハ長調
    1. Allegro ハ長調 ソナタ形式
    2. Andante ヘ長調
    3. Menuetto ハ長調 〜 ヘ長調
    4. Allegro Molto ハ長調 ソナタ形式
    〔作曲〕 1762年夏〜64年1月 ザルツブルク、ブリュッセル、パリ

  2. K.7 ソナタ ニ長調
    1. Allegro molto ニ長調
    2. Adagio ト長調
    3. Menuetto ニ長調
    〔作曲〕 1763年11月30日〜64年2月1日 パリ

作品2

ド・テッセ伯夫人に「作品2」として贈った2曲のソナタ
  1. K.8 ソナタ 変ロ長調
    1. Allegro 変ロ長調
    2. Andante grazioso ヘ長調
    3. Menuetto 変ロ長調 〜 変ロ短調
    〔作曲〕 1763年11月21日〜64年1月 パリ

  2. K.9 ソナタ ト長調
    1. Allegro spirituoso ト長調
    2. Andante ハ長調
    3. Menuetto ト長調
    〔作曲〕 1764年1月 パリ

作品3「ロンドン・ソナタ」

新全集では「ピアノ三重奏曲」に分類されている。 1766年1月18日に英王妃シャーロットに「作品3」として6曲のソナタを「ピアノ・ソナタ、ヴァイオリンまたはフルート伴奏付き(チェロ任意)」というタイトルで贈った。
  1. K.10 ソナタ 変ロ長調
    1. Allegro 変ロ長調
    2. Andante 変ホ長調
    3. Menuetto 変ロ長調
    〔作曲〕 1764年8〜9月 ロンドン

  2. K.11 ソナタ ト長調
    1. Andante ト長調
    2. Allegro ト長調 三部形式(Allegro ト長調 - Menuetto ト短調 - Allegro ト長調)
    〔作曲〕 1764年8〜11月 ロンドン

  3. K.12 ソナタ イ長調
    1. Andante イ長調
    2. Allegro イ長調
    〔作曲〕 1764年8〜11月 ロンドン

  4. K.13 ソナタ ヘ長調
    1. Allegro ヘ長調
    2. Andante ヘ短調
    3. Menuetto ヘ長調
    〔作曲〕 1764年2〜9月 パリ、ロンドン

  5. K.14 ソナタ ハ長調
    1. Allegro ハ長調
    2. Allegro ハ長調
    3. Menuetto ハ長調
    〔作曲〕 1764年8〜11月 ロンドン

  6. K.15 ソナタ 変ロ長調
    1. Andante maestoso 変ロ長調
    2. Allegro grazioso 変ロ長調
    〔作曲〕 1764年10月か11月 ロンドン

作品4 「ハーグ・ソナタ」

1766年2月ハーグに滞在中、王室の皇女となったカロリーネ・フォン・ナッサウ・ヴァイルブルク(オランジュ公妃)のためにヴァイオリンを伴うピアノ・ソナタ6曲を作った。 これら6曲は「ハーグ・ソナタ」と呼ばれ、3月に公妃に「作品4」として贈った。
  1. K.26 ソナタ 変ホ長調
    1. Allegro molto 変ホ長調
    2. Adagio poco andante ハ短調
    3. Allegro 変ホ長調 ロンド形式
    〔作曲〕 1766年2月 ハーグ

  2. K.27 ソナタ ト長調
    1. Andante poco adagio ト長調 12小節
    2. Allegro ト長調 ロンド形式
    〔作曲〕 1766年2月 ハーグ

  3. K.28 ソナタ ハ長調
    1. Allegro moderato ハ長調
    2. Allegro grazioso ハ長調
    〔作曲〕 1766年2月 ハーグ

  4. K.29 ソナタ ニ長調
    1. Allegro molto ニ長調
    2. Menuetto ニ長調
    〔作曲〕 1766年2月 ハーグ

  5. K.30 ソナタ ヘ長調
    1. Adagio ヘ長調
    2. Menuetto ヘ長調 ロンド形式
    〔作曲〕 1766年2月 ハーグ

  6. K.31 ソナタ 変ロ長調
    1. Allegro 変ロ長調
    2. Tempo di menuetto 変ロ長調
    〔作曲〕 1766年2月 ハーグ

ロマンティック・ソナタ(偽作)

次の6曲のソナタは内容、形式、手法が異質であり、真作でないとされている。 モーツァルトの死後1799年にコンスタンツェがブライトコプ&ヘルテル社に売り、「ロマンティック・ソナタ集」と名付けられ出版されたが、後に彼女は真作でないことを明言した。 誰の作か不明。 また、次の曲は少年ヴォルフガングがラウパッハ(Hermenn Friedrich Raupach, 1728-78)のソナタを写譜したもの。

プファルツ・ソナタ(またはマンハイム・ソナタ)

パラチーヌ(プファルツ)選帝侯妃マリア・エリーザベトに「作品1」として献呈された6曲のピアノとヴァイオリンのためのソナタK.301〜306。 1778年11月パリのシーベルから出版された。タイトルは Six Sonates pour Clavecin ou Forte Piano avec accompagnement d'un Violon dédiées à son Altesse Sérénissime Électorale Madame l'Électrice Palatine.

その後、モーツァルト母子はアウクスブルク(そこで有名なシュタインのクラヴィコードを知る)を経て、10月30日にマンハイムに到着し、4ヶ月半滞在することになる。 そこでマンハイム楽派の音楽に接したり、またアロイジア・ウェーバーに恋したりして、その地がすっかり気に入り、なんとか仕事を得ようと試みるが失敗に終わる。 12月頃はまだその希望を抱いて、父に「この2ヶ月たっぷり作曲するものがありそうです。それらを選帝侯に献呈しようと考えています」と伝えているが、その作曲予定の中にピアノとヴァイオリンのためのソナタ集が含まれていた。 そして、1778年1月10日付けの手紙で母が「ヴォルフガングは今6曲の新しいトリオを作っている」と知らせ、さらに2月14日には本人が父に「がまんできない楽器(フルート)のために作曲するのは気が乗らないので、気晴らしのためにクラヴィーアとヴァイオリンのための二重奏曲を書きました」と伝えていることから、これらのソナタの成立時期が「1778年2月頃」と判断されている。 ただし、K.301, K.302, K.303 の3曲はマインハイムで完成され、K.304 はマンハイムで書き始めパリで完成、さらに K.305 はパリで作曲し完成されたという。 6曲まとめて版刻する約束は9月末だったが、うまく事が運ばず、出版されたのは11月になってからで、上記のタイトルで献呈された。 ただし、出版後も作者自身の手には届くことなく(それらをグリムのせいにしているが)パリを離れることになる。 しかも出版にあたって、モーツァルトが望む金額より低い額で譲歩せざるを得なかった。 駆け引きのヘタな息子からの便りにレオポルトは相当イライラしていたことが手紙の随所にあり、12月31日には「私はこの手紙を書きながら、ほとんど気が狂いそうだ」と息子に書き送っている。

これらはまとめて「マンハイム・パリ・ソナタ」あるいは「選帝侯妃ソナタ(プファルツ・ソナタ)」と呼ばれる。 6曲の自筆譜はスイスの個人蔵。

  1. K.301 (293a) ソナタ 第25番 ト長調
    1. Allegro con spirito ト長調 ソナタ形式
    2. Allegro ト長調 三部形式
    〔作曲〕 1778年2月 マンハイム

  2. K.302 (293b) ソナタ 第26番 変ホ長調
    1. Allegro 変ホ長調
    2. Andante grazioso 変ホ長調 ロンド形式
    〔作曲〕 1778年2月 マンハイム

  3. K.303 (293c) ソナタ 第27番 ハ長調
    1. Adagio - Molto allegro ハ長調
    2. Tempo di Menuetto ハ長調
    〔作曲〕 1778年2月 マンハイム

  4. K.304 (300c) ソナタ 第28番 ホ短調
    1. Allegro ホ短調 ソナタ形式
    2. Tempo di menuetto ホ短調 ロンド形式
    〔作曲〕 1778年 マンハイム、パリ

  5. K.305 (293d) ソナタ 第29番 イ長調
    1. Allegro di molto イ長調 6/8 ソナタ形式
    2. Andante grazioso イ長調 主題と6変奏
    〔作曲〕 1778年 パリ

  6. K.306 (300l) ソナタ 第30番 ニ長調
    1. Allegro con spirito ニ長調
    2. Andante cantabile ト長調
    3. Allegretto - Allegro ニ長調
    〔作曲〕 1778年 パリ

アウエルンハンマー・ソナタ集とその周辺

ザルツブルクから飛び出し、ウィーンで自立したモーツァルトは、ザルツブルクで心配する父に対して「息子が気晴らしと歓談の間を泳ぎ回っているとでも思っているなら、それは間違いだ。 財布を空にしないための気苦労でいっぱいだ」と書き送り、自分が無分別な行動をしているのではないことを強調した手紙(1781年5月19日)の中で、 「現在は必要ぎりぎりしか持っていないが、いま6曲のソナタの予約が進んでいるので、それで金が入る」と伝えている。

ピエロン嬢のために作った K.296 と、後の5曲のソナタ K.376〜380 がまとめられてウィーンのアルタリア社から「作品2」として1781年11月に出版され、 アウエルンハンマー嬢(オーストリアの実業家アウエルンハンマー氏の令嬢ヨゼファ)に献呈されたので、これらは「アウエルンハンマー・ソナタ」と呼ばれている。 捧げられた作品集の標題は「ヴァイオリン伴奏つきのクラヴィアまたはピアノフォルテのための6つのソナタ Six sonates pour le clavecin ou pianoforte avec l'accompagnement d'un violon dediés a Mademoiselle Josephe d'Aurnhamer par Wolfg. Amadé Mozart」。

1783年4月4日、ハンブルクの「Magazin der Musik」紙の記事

これらのソナタはこの種の曲の中ではユニークなものだ。新しい楽想に満ち、作曲者の偉大な音楽的天分の跡を見せている。曲想は輝かしく、この楽器に適したものだ。 さらにヴァイオリンの伴奏は巧みにピアノのパートに配されており、2つの楽器は切れ目なく弾き続けている。 したがってこのソナタのヴァイオリニストはピアニストぐらいの完成した技術が要求される。
  1. K.376 (374d) 第32番 ヘ長調
    1. Allegro ヘ長調
    2. Andante 変ロ長調
    3. Allegretto grazioso ヘ長調
    〔作曲〕 1781年夏 ウィーン

  2. K.296 第24番 ハ長調
    1. Allegro vivace ハ長調
    2. Andante sostenuto ヘ長調
    3. Allegro ハ長調
    〔作曲〕 1778年3月11日 マンハイム

  3. K.377 (374e) 第33番 ヘ長調
    1. Allegro ヘ長調
    2. Andante ニ短調、主題と6変奏
    3. Tempo di Menuetto ヘ長調
    〔作曲〕 1781年夏 ウィーン

  4. K.378 (317d) 第34番 変ロ長調
    1. Allegro moderato 変ロ長調
    2. Andante sostenuto e cantabile 変ホ長調
    3. Allegro 変ロ長調
    〔作曲〕 1779年初 ザルツブルク

  5. K.379 (373a) 第35番 ト長調
    1. Adagio ト長調 ソナタ形式(再現部 Allegro ト短調)
    2. Andantino cantabile 主題と6変奏
    〔作曲〕 1781年4月7日? ウィーン

  6. K.380 (374f) 第36番 変ホ長調
    1. Allegro 変ホ長調
    2. Andante con moto ト短調
    3. ロンド Allegro 変ホ長調
    〔作曲〕 1781年4月7日? ウィーン

ド・ルムベック伯爵夫人のために


1781年以降

  1. K.372 ピアノとヴァイオリンのためのソナタのアレグロ (未完)
    〔作曲〕1781年3月24日 ウィーン
    変ロ長調、未完 65小節

  2. K.403 (385c) ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ハ長調
    1. Allegro moderato ハ長調 63小節 4/4
    2. Andante ヘ長調 59小節 3/4
    3. Allegretto ハ長調(未完 20小節主題提示まで) 2/4
    〔作曲〕 1782年8月か9月 ウィーン

  3. K.404 (385d) ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ハ長調 (未完)
    1. Andante ハ長調 18小節 2/2
    2. Allegretto ハ長調 24小節 2/4
    〔作曲〕 1788年? ウィーン

  4. K.385E (Anh.48) ピアノとヴァイオリンのためのソナタ楽章
    A piece of sonata for piano and violin, in A (fragment)
    〔作曲〕 1782年? ウィーン
    Allegro イ長調 断片 34小節。 コンスタンツェのためのソナタ集の一つか。 タイソンの推定は1784年。
    〔演奏〕
    CD [KKCC-4123-4] t=1'04
    オランダ・ソロイスツ
    1992年

  5. K.402 (385e) ピアノとヴァイオリンのためのソナタ イ長調
    1. Menuetto : Andante ma un poco adagio イ長調
    2. 3声のフーガ Allegro moderato イ短調 断片 62小節
    〔作曲〕 1782年? ウィーン

  6. K.454 ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第40番 変ロ長調
    1. Largo - Allegro 変ロ長調
    2. Andante 変ホ長調
    3. Allegretto 変ロ長調 ロンド形式
    〔作曲〕 1784年4月21日 ウィーン

  7. K.481 ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第41番 変ホ長調
    1. Molto allegro 変ホ長調
    2. Adagio 変イ長調 ロンド形式
    3. Allegretto 変ホ長調 主題と6変奏
    〔作曲〕 1785年12月12日 ウィーン

  8. K.526 ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第42番 イ長調
    1. Allegro molto イ長調
    2. Andante ニ長調
    3. Presto イ長調
    〔作曲〕 1787年8月24日 ウィーン

  9. K.526a (Anh.50) ピアノとヴァイオリンのためのソナタ イ長調 (草稿)
    A piece of sonata for piano and violin, in A (fragment)
    〔作曲〕 1787年夏 ウィーン
    前曲第1楽章のため。 自筆譜には「ドン・ジョヴァンニ」と「魔笛」のスケッチもあるという。

  10. K.546a (Anh.47) ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調 (断片)
    A piece of sonata for piano and violin, in G (fragment)
    〔作曲〕 1788年6月 ウィーン
    断片 31小節、4分の4拍子。 K.547のスケッチらしい。 タイソンの推定は1790〜91年。
    〔演奏〕
    CD [KKCC-4123-4] t=1'03
    オランダ・ソロイスツ
    1992年

  11. K.547 ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第43番 ヘ長調
    1. Andantino cantabile ヘ長調 三部形式
    2. Allegro ヘ長調
    3. Andante ヘ長調 変奏形式(6変奏)
    〔作曲〕 88年7月10日 ウィーン

 

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2010/12/05
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