マンハイム・ソナタ第３番。 独自の自由で斬新な形式上の実験を大胆に行った曲と言われる。

よく知られているようにモーツァルトは1777年９月、母と二人で就職活動のためザルツブルクを旅立った。 10月６日、最初の滞在地ミュンヘンからザルツブルクの父姉に宛てた手紙に次の一文がある。

追伸。 姉さんのために、シュースターの６曲の『クラヴィチェンバロとヴァイオリンのための二重奏曲』を同封します。 ぼくはこれらの作品をよくここで演奏しました。 悪くはありません。 当地ではこれらは非常に好まれているので、もしここにぼくが留まるなら、この様式でやはり６曲書いてみたいと思います。

［書簡全集 III］ p.101

御存知の通り、ぼくはがまんできない楽器のために書かなくてはならないときは、いつもたちまち気が乗らなくなります。 そこで気晴らしのためにほかのものを作曲しました。 クラヴィーアとヴァイオリンのための二重奏曲とか、ミサ曲までも書きました。 いま、クラヴィーア二重奏曲を出版してもらおうと、真剣に打ち込んでいます。

［書簡全集 III］ p.526

余談であるが、上の手紙にある「がまんできない楽器」とはフルートのことであり、ちょうどこの頃モーツァルトはドジャンの依頼に応じてその楽器のための作品を書いていた。 しかし作曲の環境は良くなかった。 自分の名前が世間に公表される以上は、それに恥じない仕事をしたいというのが彼の絶対的な信条だったので、作曲のための時間が十分とれないことに加えて楽器（あるいは依頼主）に対する不信感から、気が乗らないことに苛立っていたようである。

〔演奏〕

CD [TOCE-6726] t=9'56 (mono) クラウス Lili Kraus (p), ボスコフスキー Willi Boskovsky (vn) 演奏年不明（1960年以前）

CD[COCQ 83885-88] t=10'10 ホルショフスキー (p), シゲティ (vn) 演奏年不明

CD [POCL-2084] t=10'09 ルプー Radu Lupu (p), ゴールドベルク Szymon Goldberg (vn) 1974年、ロンドン、Kingsway Hall

CD [Deutsche Grammophon 410 896-2] t=10'15 バレンボイム Daniel Barenboim (p), パールマン Itzhak Perlman (vn) 1984年頃

CD [KKCC-232/3] t=9'32 ヴェッセリノーヴァ Temenuschka Vesselinova (fp), バンキーニ Chiara Banchini (vn) 1993年４月 ヴァイオリンは1780年クレモナ、フォルテピアノはクロード・ケレコム製シュタイン・モデル。

CD [AMBRONAY ARCANA A 906] t=11'23 アルヴィーニ Laura Alvini (fp), ガッティ Enrico Gatti (vn) 1997年10月29日 - 11月３日、Villa Medici Giulini フォルテピアノは Anton Walter製（Vienna ca. 1785）、ヴァイオリンは Laurentius Storioni製（Cremona 1789）で演奏。

CD [PHILIPS UCCP-1103] t=9'50 内田光子 (p), スタインバーグ Mark Steinberg (vn) 2004年６月 - ７月、スネイプ、モルティングス

〔動画〕

• [http://www.youtube.com/watch?v=9Yt97xhurk8] t=11'05
  Sigiswald Kuijken (vn), Luc Devos (fp)
• [http://www.youtube.com/watch?v=9PYZtnAirkE] t=11'40
  Claudio Ferrarini (fl), Luigi Fontana (cembalo)
  San Giovanni IMOLA - 2 aprile 2011

〔参考文献〕

• ［事典］
  海老沢敏・吉田泰輔監修 「モーツァルト事典」 東京書籍
• ［書簡全集］
  海老沢敏・高橋英郎編訳 「モーツァルト書簡全集」 白水社

2013/01/27