Mozart con grazia > ピアノのための幻想曲と変奏曲 >
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12のピアノ変奏曲 変ホ長調 K.354 (299a)

  • 「私はランドール Je suis Lindor.」を主題に
〔作曲〕 1778年春か夏 パリ

母と二人でザルツブルクを旅立ち、1778年3月下旬から、モーツァルトはパリで就職活動を始めた。 しかし事はうまく運ばず、7月3日には母が死去。 9月8日にパリでの最後の演奏会をしたあと、よく知られているように、失意のまま帰郷することになる。 この曲は、この間、春か夏に作曲されたと思われる。 当時パリでは変奏曲が流行していたといわれ、モーツァルトは当地でポピュラーな旋律を使うことで注目を集めようと考えたのであろう。 この曲は、1775年にパリで上演されたボーマルシェ(Pierre Augustin Caron de Beaumarchais, 1732-99)の「セビリヤの理髪師 Le Barbier de Séville」の第1幕でアルマヴィーヴァ伯爵が歌う「私はランドール Je suis Lindor.」を主題にしている。 ただしその曲は、コメディーフランセーズの音楽監督で舞台音楽を作曲したり編曲したりしていたボドロン(Antoine Laurent Baudron)の作である。

主題は Allegretto 変ホ長調、4分の2拍子。 第8変奏で短調(変ホ短調)になる。 内容も技法もすぐれた会心作で、モーツァルトは機会あるごとに演奏したらしい。 そのことは、3年後に父へ宛てた次の手紙からうかがえる。

1781年3月24日
(ぼくが出演したら)協奏曲でなく、(皇帝が前桟敷にいますから)たった一人で前奏曲を弾き(そのためには、トゥーン伯爵夫人がご自分の立派なシュタイン製のピアノを貸してくれるでしょう)、一つのフーガを、それから『私はランドル』の変奏曲を弾いたでしょう。 今までもそれを公開するたびに、最大の喝采を受けたものです。 それはいろいろと巧いコントラストがあって、だれでも気に入るところが見つけられるからです。
[手紙(上)] p.239
よく知られているように、この頃モーツァルトはフォルテピアノという新しい鍵盤楽器の登場に心奪われ、その優れた楽器を所有していたトゥーン伯爵夫人(34歳)の支援のお陰で思う存分そのダイナミックな性能を試すことができた。 さらに夫人のサロンでは皇帝ヨーゼフ2世との良好な関係も生まれ、ウィーンで自立を決意したモーツァルトには心強いことだったろう。
モーツァルトは大司教と最終的な決裂をする前の1781年4月3日、ケルントナートーア劇場の隣の皇室専用劇場で行なわれた慈善演奏会に出演し、自作のシンフォニーを指揮するとともに、《「私はランドール」による12の変奏曲 変ホ長調 K354》を弾き、大成功を収めているが、このとき使用した楽器は、トゥーン伯爵夫人が持っていたシュタイン製作のピアノフォルテだった。 このコンサートで改めてモーツァルトに注目した皇帝ヨーゼフ2世は、この年のクリスマス・イヴに宮殿に呼んでクレメンティと競演させるのだが、このコンテストで使われた楽器もトゥーン伯爵夫人のピアノフォルテだった。 トゥーン伯爵夫人のピアノフォルテを宮殿に運び入れることができたのは、夫人のサロンに皇帝が時々顔を出していた、という縁の賜物だったろう。
[久元] p.33
さらに1781年には、パリ・エーナ社から初版が(K.179, K.180とともに)出され、好評だったらしい。 はっきりとした記録が残っていないのは残念であるが、ほかにもこの曲を演奏した可能性が考えられる機会があり、そのためか、変奏の曲順が異なるいくつかの版があるという。 新全集は初版によっている。

〔演奏〕
CD [EMI TOCE-11557] t=10'39
ギーゼキング (p)
1953年
CD [PHILIPS PHCP-3673] t=18'09
ヘブラー (p)
1975年
初版
CD [SYMPHONIA SY-91703] t=19'27
アルヴィーニ (fp)
1990年
CD [TOCE-7514-16] t=18'04
バレンボイム (p)
1991年
新全集版(初版)
CD [NAXOS 8.550611] t=20'50
ニコロージ (p)
1991年

〔動画〕

〔参考文献〕


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2016/03/27
Mozart con grazia