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■編成 2 vn, va, vc
■作曲 1784年11月9日 ウィーン
自作目録第10番。 よく知られているように、ハイドンに捧げた6曲の弦楽四重奏曲の一つ。 このシリーズは1782年12月末に書かれたト長調「春」K.387から始まり、1785年1月のハ長調「不協和音」K.465で完結するが、6曲そろったらパリのシベールから出版しようとしていた。 その際、少なくとも50ルイ・ドール(550フローリン)以下では手放さないと言っていた。 しかし実際には、ウィーンのアルタリアに100ドゥカーテン(450フローリン)で売り渡し、1785年10月に「作品10」として出版された。 その金額は通常のオペラ1曲分に相当する収入であるという。 レオポルトはザルツブルクからザンクト・ギルゲンに住む娘ナンネルに次のような手紙(1785年1月22日)を書き送っている。
たった今、お前の弟から十行ばかりの手紙を受け取った。 その中に、最初の予約音楽会が2月11日に始まって、毎週金曜日につづけられること、四旬節第三週目の何曜かにはきっと劇場でハインリヒのための音楽会があって、私にすぐにも来いということ、この前の土曜日に6つの四重奏曲をアルターリアに売って、100ドゥカーテンを手に入れ、その曲を愛する友ハイドンやその他の友人たちに聴かせること、が書いてある。柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(下)」岩波文庫 pp.110-111
レオポルトは1785年2月11日から4月25日までウィーンを滞在することになるが、到着してすぐ翌日、これもまたよく知られているように、ウィーンのモーツァルトの家(フィガロ・ハウス)で3曲の弦楽四重奏曲(変ロ長調 K.458、イ長調 K.464、ハ長調 K.465)が演奏されるのを聴くことになった。
そのときの演奏者は、モーツァルト本人のほか、ハイドン、アントン・フォン・ティンティ男爵(Anton von Tinti)、バルトロメウス・フォン・ティンティ男爵(Bartholomaeus von Tinti)であった。
二人の男爵はフリーメーソンの団員であり、ハイドンも入団したばかりであった。
このときの演奏を聴いて、父レオポルトは2月16日に娘ナンネルに宛てた手紙で「これら3曲はいくぶん軽いが、構成は素晴らしい」と書いている。
「フィガロ・ハウス」(写真の2階部分)は家財道具がすべて備わった立派な住居で、家賃が460フローリンもしたという。
ウィーン中心部に位置し、シュテファン大聖堂に近いところであり、そのせいで家賃が高かった。
名前の由来はオペラ「フィガロの結婚 K.492」がここで作曲されたことにあるが、もちろんこれは後の命名である。
ただし不思議なことに、この住居の借家人の記録にはモーツァルトの名前は残っていないという。
誰かが匿名で援助していたかもしれず、謎である。
モーツァルトはこの家の道路に面した部屋を仕事部屋として、「フィガロ」などの数々の傑作を書いた。
また、ここはハイドンをはじめとする音楽仲間との交友の場でもあった。
現在は「モーツァルト記念館」として公開されている。
とにかく、レオポルトがウィーンを訪問したとき(1785年2月11日から4月25日まで)ここに滞在し、3曲の弦楽四重奏曲を聴いたのであった。
そしてそのとき、彼はハイドンから次のような賛辞を受けたこともよく知られている。
誠実な人間として神の御前に誓って申し上げますが、御子息は、私が名実ともども知っているもっとも偉大な作曲家です。 様式感に加えて、この上なく幅広い作曲上の知識をお持ちです。海老沢&高橋編訳「モーツァルト書簡全集 VI」 白水社 pp.37-38
6曲のハイドン・セットは前半3曲と後半3曲とで区別される。 そのポイントについて、クリーグズマンは次のように簡潔に示している。
手段のさらに厳しい節約、より多くの対位法的技術の適用、展開原理のさらに強められた追求、そして、緩徐楽章の感情の深さである。この作品はその後半のセットの最初に位置する。 ただし、タイソンによると自筆譜の初めの2枚が1783年の紙であるという。 したがって自作目録に記載された「1784年11月9日」より1年以上も前に作曲に着手したが、何らかの理由で放置していたとも考えられる。 この曲の特徴は、まず、第1楽章の冒頭主題が狩猟のときの角笛の響きに似ていることにある。 そのため「狩」あるいは「狩猟」というあだ名がつけられている。 6曲のセット中でもっとも当時の聴衆の好みに合わせて作られているとも言われ、レオポルトが評した「いくぶん軽い」調子が感じられる。 さらにクリーグズマンによれば、メヌエットにはモーツァルトのこのジャンルに共通する「まじめさ、真剣で情熱的でさえある特質」が備わっているが、ザスロー「モーツァルト全作品事典」 音楽之友社 pp.334-335
しかし、まじめさと情熱に関しては、「ハイドン・セット」におけるどの曲も、類いまれな次の楽章に太刀打ちできるものをもってはいない。 そこには、アダージョと記されており、──アダージョと書かれている緩徐楽章は6曲のうちでこの楽章のみ──この指示はすべての18世紀の作曲家と同様、モーツァルトにとっても、速度というより感情表出上の意図を指示するものだった。といい、この偉大な部分は「ハイドンと競うというより、むしろ成熟したベートーヴェンを先取りしている」と評している。 また、アインシュタインは次のように述べている。「モーツァルト全作品事典」 p.335
リタニア K.195 のアグヌス・デイとして、それまでに書いたうちでも最も超現世的なアダージョ楽章を書き、ソプラノ独唱と応答し終結するトゥッティを用いている。 10年後に彼はそのモティーフを弦楽四重奏曲『狩』のアダージョに再び取り入れるのである。 ・・・略・・・ あの弦楽四重奏曲(K.458)のアダージョもまた一つの祈りである。フィナーレは初め prestissimo のテンポによる同じ主題で書きかけたが、13小節で中断したという。 そのフィナーレにおいて、6曲を前半と後半とに区別しうる顕著な相違があることをアインシュタインが次のように指摘している。浅井真男訳「モーツァルト、その人間と作品」 白水社 p.450
モーツァルトの芸術家としての叡知の見事な一例を示しているのが K.458 のフィナーレの発端である。 はじめモーツァルトは譜例(略)のように書いたのであった。 しかし彼はすぐに、この模倣的な発端が、展開部に取っておかねばならない効果を先取りしてしまうということを悟り、それからあらゆる《努力》、あらゆる《汗》を洗い落すのである。 これが少しのちにできた三つの四重奏曲(K.458, 464, 465)と、グループの前半のもの(K.387, 421, 465)との相違なのであり、この場合進歩という言葉を敢えて使うことが許されれば、進歩なのである。「その人間と作品」 p.256
■余談
カンビーニ(Giovanni Maria Gioacchino Cambini, 1746-1825)はヴァイオリン奏者としてはタルティーニの弟子。 作曲家としてはマルティーニ師の弟子。 1770年以降パリに居住し、ゴセックの庇護を受け、コンセール・スピリチュエルで定期的に作品を披露していた。 モーツァルトの評価は、レオポルトのイタリア人嫌いの影響を受けているものと考えられる。 一方カンビーニはモーツァルトの作品を評価していたらしく、「狩」をみずから筆写している。「書簡全集 IV」 p.52
■演奏
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CD[WPCC-4120/1] t=26'51 アマデウス四重奏団 1950年 |
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CD[DENON 28CO-2151] t=24'50 ベルリン弦楽四重奏団 1971年 |
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CD[TELDEC 72P2-2803/6] t=27'18 アルバンベルク 1978年 |
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CD[DENON COCO-6787] t=25'42 パノハ四重奏団 Panocha Quartet 1980年10月、荒川区民会館 |
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CD[ポリドール POCG-7056] t=25'35 エマーソン弦楽四重奏団 1988年、ケルン |
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CD[PILZ CD-160-226] t=23'45 ザルツブルク・モーツァルテウム四重奏団 1990年頃 |
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CD[NAXOS 8.550542] t=27'08 エーデル四重奏団 1991年4月、ブダペスト |
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CD[MDG 301 0498-2] t=23'45 コンソルティウム・クラシクム 1998年 ※オーボエ、ヴァイオリン、2ヴィオラ、チェロの5重奏曲(編曲版) |
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