Mozart con grazia > アリア >
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アリア 「あなたに明かしたい、おお神よ」 K.418

〔編成〕 S, 2 ob, 2 fg, 2 hr, 2 vn, 2 va, vc, bs
〔作曲〕 1783年6月20日 ウィーン
1783年6月






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Aloysia
1760?-1839

イタリア(ローマ)で活躍していたオペラ作家アンフォッシ(当時56歳)のオペラ『無分別な詮索好き Il curioso indiscreto』がウィーンで初公演される際、主役のクロリンダ役となるアロイジアのために書いたアリアの一つ。 オペラの題名は『軽はずみな変り者』、『厚かましい物好き』または『余計なお世話』とも訳される。 このとき、モーツァルトは出演するアロイジア(当時23歳)とアダムベルガー(当時43歳)のために挿入歌を3曲(K.418, K.419, K.420)を作曲した。 6月21日の父への手紙で次のように伝えている。

いま、とても短い手紙しか書けません。 やらなくてはならないことがあまりにも沢山あるので、どうしても必要なことだけお伝えしておきます。 というのは、新しいイタリア語オペラが上演され、そこに初めて二人のドイツ人の歌手が出演する予定です。 それはぼくの義理の姉ランゲ夫人とアーダムベルガーです。 それでぼくは、ランゲ夫人のために二つのアリア、そしてアーダムベルガーのためにロンドーを一曲書かなくてはなりません。
[書簡全集V] pp.380-381
オペラが1783年6月30日にブルク劇場で上演されたとき、アロイジアが歌ったモーツァルトの曲だけが受けたという。 父へ(7月2日)次のように知らせている。
ランゲ夫人とアーダムベルガーが初出演するアンフォッシのオペラ『無分別な詮索好き』は、おとといの月曜日に初演されました。 ぼくの二つのアリアを除いて、まったく受けませんでした。 その二番目の曲は、華麗なアリアで、アンコールしなくてはなりませんでした。
[書簡全集V] p.383
ここで、「二つのアリア」とはアロイジアのために書いた K.418 と K.419 である。 アダムベルガーのためのロンド K.420 は歌われなかった。 それには、上演前にサリエリ(当時33歳)の陰謀があったことを同じ手紙(7月2日)で知らせている。 その結果、アダムベルガーのためのアリアは台本にも印刷されなかったという。 一方の、アロイジアのためのアリアは2曲とも印刷され、上の手紙に報告されている通り、サリエリが嫉妬するほどの好評を博したのである。 それでは、アロイジアには何らかの陰謀の手が及ばなかったのか。 彼女にはさしものサリエリも近寄りにくかったのか。 その疑問に対する答えはモーツァルト自身の手紙(7月2日)に書かれてある。 すなわち、
ランゲ夫人が二つのアリアを練習するために家に来ていて、どうしたらぼくらが敵どもよりも巧くいけるか、対策を練ったのです。 ぼくらにはたくさん敵がいますからね。 それに、ランゲ夫人だって、新しい歌手ストレース嬢ともいまや大いに関係がありますからね。
[書簡全集V] p.383
ということで、根も葉もない「モーツァルトがアンフォッシのオペラを改作しようとした」という意地悪な噂に対抗する方策を一緒に考えていたのである。 その場にはアダムベルガーの妻マリア・アンナもいて、「改作されたオペラでアダムベルガーがモーツァルトのアリアを歌うことに、宮廷の演劇局長官ローゼンベルク伯爵は良く思わないだろう」というサリエリの言葉を疑い、ローゼンベルク伯爵自身は何も知らないことだろうと予想したのである。 そこでモーツァルトのとった方策は、当のローゼンベルク伯爵に
2つのアリアは、マエストロ・モーツァルト氏によって、ランゲ夫人の気に入るように作曲されたものである。 なぜなら、マエストロ・アンフォッシ氏のアリアは、彼女の声ではなく、別の歌手に合うように書かれているからである。 しかるべき人に敬意を表し、このきわめて高名なナポリ人の評判と名声をけっして傷つけることのないよう、御注意いただきたい。
[書簡全集V] pp.383-384
という通告文をドイツ語とイタリア語で台本に印刷してもらうことだった。 この先手を打ったモーツァルトの作戦は見事に当たり、「敵どもはひどくうろたえる」ことになり、アロイジアの歌ったアリアは大成功となったのである。 ただしサリエリの策略について一方的にモーツァルトの言い分を真に受けてよいかどうかは疑問だろう。 クリストフ・ヴォルフは
彼は仮想敵と同じレベルに自らをおとしめ、レオポルトが危うく思ったほどの喧嘩腰で、「いかに敵どもより美しくありうるか」について力説する。 彼の組み立てた筋書きには、劇場の世界では日常茶飯事の中傷や陰謀の芽が、顔を覗かせている。 もっとも、ウィーンで敵に囲まれているという感覚は、まずレオポルトが抱き、1768年に『見てくれの馬鹿娘』で敗退して以来、息子に教え込んだものであった。
[ヴォルフ] p.46
と述べて、ジョン・ライスの言葉を引用している。
モーツァルトは、サリエーリが一役買っていた陰謀グループに苦しめられていたかもしれないが、そうした行為が本当にあったかどうか、サリエーリがじっさいに役割にどんな役割を果たしたかについての証拠は、もちろん乏しい。

よく知られているように、モーツァルトは前年(1782年)8月4日にコンスタンツェと結婚しているが、彼がかつて片想いを寄せたことのあるアロイジアは既に1780年10月31日、ウィーン宮廷俳優ヨーゼフ・ランゲと結婚していた。 アインシュタインは、モーツァルトを袖にしたことのあるアロイジアを許せなかったのか、彼女のために書いたこれらのアリアに対する評価は低い。

いわば前者(K.418)は半ば抒情的、半ばコンチェルタントであり、後者(K.419)は劇的で名人芸的、という対照的な性格を持っている。 前者は微妙な心理学に満ちているが、後者は半ば《カテゴリー》、英雄的憤激への退歩である。 しかし両者ともに、アーロイージアの冷やかな名人芸を顧慮したために、いささか表面的になり、また拘束を受けている。
[アインシュタイン] p.501
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということであろうか。 一方、せっかく作ってあげた曲(K.420)を歌わなかったアダムベルガーに対して、作曲者は怒り心頭であった(1783年7月2日の手紙)が、アインシュタインは「もしこの曲が『フィガロの結婚』または『ドン・ジョヴァンニ』のなかにあったならば、世界的に有名になったであろう」と最高級の評価を与えている。

この曲(K.418)は、アダージョ、イ長調、2分の2拍子から、アレグロ、4分の4拍子に変る。 作詞者は不明。 内容は次のようなものである。

オペラの筋立てにおいて、カランドラーノ侯爵は、婚約者であるクロリンダの貞節さを試すために、友人のリパヴェルデ伯爵に彼女を誘惑するよう、彼女のもとに行かせる。 《私はあなた様に明かしたい、おお、神よ!》は第1幕の終わりのほうで歌われ、クロリンダは、彼女の恋敵となるエミーリアと幸せに暮すよう、気高く伯爵を去らせる。
[全作品事典] p.112
なお、このアリアのスケッチと見られるアリア「ああ、明したまえ、おお神よ」(K.178)がある。

〔歌詞〕
  Clorinda
Vorrei spiegarvi, oh Dio!
qual'è l'affanno mio
ma mi condanna il fato
a piangere e tacer, rip.
Arder non può il mio core
per chi vorrebbe amore
e fa che cruda io sembri,
un barbaro dover,
Vorrei spiegavi, oh Dio
  クロリンダ
ああ、できるならあなたにご説明したいものです
私の苦しみがどんなものか。
でも私は運命の定めにより
泣き、黙するしかありません。
私の心は燃えるわけにはまいりません、
愛を求めようとなさるお方のために
そして冷たく見えるようさせられております、
酷い義務感によって。
 
小瀬村幸子訳 CD[WPCC-4860]

〔演奏〕
CD [UCCG 4118] t=6'28
シュトライヒ Rita Streich (S), マッケラス指揮バイエルン放送交響楽団
1958年、ミュンヘン
CD [WPCC-4860] t=7'57
グルベローヴァ Edita Gruberova (S), アーノンクール指揮ヨーロッパ室内管弦楽団
1991年6月、グラーツ
CD [GLOSSA GCD 921104] t=6'24
シーデン Cyndia Sieden (S), ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ
1998年9月、ユトレヒト
CD [Brilliant Classics 93408/2] t=6'16
Francine van der Heyden (S), European Sinfonietta, Ed Spanjaard (cond)
2002年8月、オランダ、ハーグ、Nieuwe Kerk

〔動画〕

〔参考文献〕


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2016/07/17
Mozart con grazia